トップページ 研究活動 研究成果 ピックアップ 飛沫やエアロゾルの飛散の様子を可視化し有効な感染対策を提案 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その1
飛沫やエアロゾルの飛散の様子を可視化し有効な感染対策を提案 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その1
飛沫やエアロゾルの飛散の様子を可視化し有効な感染対策を提案 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その1
複雑現象統一的解法研究チーム チームリーダー/神戸大学 教授 坪倉誠
理化学研究所は文部科学省と連携し、整備中のスーパーコンピュータ「富岳」の一部を使い、新型コロナウイルス対策に貢献する様々な研究課題に2020年4月から取り組んでいます。
今回は、その第1弾として、「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」の現時点における研究成果を紹介します。これは「富岳」を使ったシミュレーション※1により、新型コロナウイルスが飛沫やエアロゾルによりどのように飛散するかを予測し可視化することで、有効な感染対策を提案し、社会経済活動が早期回復することを目的とした研究です。
(代表者:理化学研究所 計算科学研究センター 複雑現象統一的解法研究チーム チームリーダー/神戸大学 教授 坪倉誠)
- 1 シミュレーション:ここでは、コンピュータを使ったシミュレーションのこと。自然現象、社会現象をモデル(方程式)によって表現し、いろいろなケースにおいて、その振る舞いを計算すること。
「富岳」で高精度・大規模な「飛沫シミュレーション」を実施
新型コロナウイルスは、咳やくしゃみ、発話などにより発生する「飛沫」によって感染が拡大します。また、飛沫が空気中で微小化した「エアロゾル」による感染も指摘されています。有効な感染対策を実施するには、周囲の環境が、飛沫・エアロゾルの飛散の仕方にどのような影響を与えるかなどを様々な条件の下で、正しく推定することが不可欠です。
しかし、飛沫・エアロゾルの飛散経路は、空気の流れや湿度、温度などの影響を複合的に受けるため、飛散の推定には、膨大な計算量が求められます。そこで本研究課題では、「富岳」と「富岳」への実装を進めていた超大規模熱流体解析ソフトウェア「CUBE」を用いて、これまでのコンピュータでは困難だった高精度で大規模な「飛沫シミュレーション」を実施しました。「CUBE」は、もともと自動車に関する様々な現象のシミュレーションを行うために開発したものです。自動車のエンジンの中でガソリンが霧状の飛沫となり拡散していく様子を高精度でシミュレーションできることから、新型コロナウイルスの飛沫・エアロゾルの解析に応用できるのではないかと考えたことから、本研究課題がスタートしました。
マスクは感染対策として極めて有効
オフィスではパーティションと換気で感染リスクを低減
飛沫・エアロゾル飛散における湿度の影響
学校の教室ではエアコンと窓開けの併用が有効
オフィスのほか、学校の教室や病室の場合についてもリスク評価を行いました。まず、学校の場合ですが、公立学校の生徒40名の教室(192平米)を対象に感染リスク評価を行いました。オフィスと異なる点は、公立学校のエアコンには、換気機能が不十分な場合があることです。そのため、エアコンと窓開けによる換気により、感染リスクがどの程度低減されるかを評価しました。その結果、窓と廊下側の扉を対角に開けることで、エアコンによる温度管理機能と空気の循環機能を発揮しつつ、窓開けによる換気の効果もあることがわかりました。
一方、病室の場合は、4床の一般病室では各種法令により、一定基準を満たした外部空気との換気がされています。しかし、室内における空気の流れは一様ではなく、換気のムラが発生しています。シミュレーションの結果、飛沫・エアロゾル感染のリスク低減に即効性がある対策として、サーキュレーターや扇風機により空気の流れを発生させることが有効であることが確認されました。
約2000通りにも及ぶ様々なケースを短期間で大規模計算
今回のシミュレーションは主に3つの波及効果を期待しています。1つ目は、飛沫・エアロゾルの飛散の様子を可視化し、マスクや換気、パーティションなどの有効性を定量的に評価することにより、一般の方々の感染予防への理解の助けになること。2つ目は、産業界の方々による感染対策に向けた新商品や新サービスの開発のヒントになること。そして、3つ目は、学校で授業を進める際や、ホールでイベントを開催する際にはどのような感染対策を実施すればよいかなど、政策や各種ガイドラインを作成するための指標作りに役立てていただくことです。
また今回、「富岳」利用したことにより、約2000通りにも及ぶケースを想定し、2カ月弱という短期間でシミュレーションを実施し、結果を比較できました。飛沫シミュレーションに活用したソフトウェア「CUBE」は様々なケースの数理モデルを、短期間で作ることができる点も特徴です。海外に比べてかなり早い段階で、エアロゾルによる感染リスクを定量的に把握できたことは、「富岳」の大きな功績です。
今後も引き続き、多様なケースを数多くシミュレーションしていくことで、有効な感染対策を提案し、社会経済活動の早期回復に貢献していきます。
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(2020年11月20日)