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世界最高の成果を目指すスーパーコンピュータ「富岳」は 「普通」なのに高性能

「京」から「富岳」へ

近年、科学技術の発展により私たちの生活は大きく様変わりし、快適さや便利さが増す一方で、多くの社会課題も顕在化してきました。少子高齢化、気候変動、格差拡大など、社会課題は複雑に絡み合い、それらを解決するにはシミュレーションなどのIT技術を活用しなければならない時代になってきたのです。
このような背景のもと、2012年の共用開始以降、スーパーコンピュータ「京」は国産コンピュータのフラッグシップとして、基礎研究や企業の技術開発に貢献し、計算科学分野において世界を牽引してきました。そして2014年から、「京」の後継機「富岳」の開発が進められ、2021年3月に共用が開始されました。

写真:富岳

Society 5.0の実現に不可欠な「富岳」

「富岳」は社会的課題と科学的課題の解決で日本の成長に貢献し、世界トップレベルの成果をあげることを目的に開発されました。具体的には、サイバー空間でモデリングした仮想社会で、実社会が抱える課題の解決策(仮説)のシミュレーションを繰り返すことで、新たな価値を生みます。「富岳」はこの「実社会への実装」を検証する役割を担います。この考え方は、政府が第5期科学技術基本計画で提唱したSociety 5.0※1の理念(サイバー・フィジカル)を早くから目指したものとなっており、「富岳」開発のために選定された重点課題もSociety 5.0が想定する社会課題そのものです。つまり、「富岳」は我が国が目指すSociety 5.0を実現するために不可欠なHPCインフラと言えるのです。

  • 1 2016年の「第5期科学技術基本計画」で提唱された「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会課題の解決を両立する、人間中心の社会(超スマート社会)」。
図:Society 5.0 社会のイメージ
Society 5.0 社会のイメージ
年齢や住んでいる場所などに関係なく、だれもが最先端の技術の恩恵を受け、快適に暮らす社会

世界最高水準の成果を目指すためのCo-design(コデザイン)

スーパーコンピュータの開発というとハードの性能競争に走りがちなのですが、「富岳」の開発では計算性能だけでなく、使いやすさにもこだわり、世界最高水準の成果を生み出すことを目指しています。使いやすさと高性能を両立するために、実際の設計ではCo-designという手法を採用し、計算機システムとアプリケーションそれぞれの開発チームが、お互いの特性を理解し協調して設計を進めてきました。
具体的には、「富岳」で重点的に取り組むべきいくつかの重点課題に対して最適な「ターゲットアプリケーション」を選定し、その特性に合わせてシステムを設計します。さらに、そのシステムに合わせて、各分野のユーザー目線に立ってアプリケーションを最適化してきました。このような「アプリケーション・ファースト」とも言うべき設計・開発の結果、「富岳」は世界最高水準の使いやすさと高性能を両立することができたのです。

「富岳」の特長は「普通で高性能」

「富岳」は「普通のマシン」であることが大きな特長です。
「普通」とは、専用プログラムを組まなくても一般的な汎用ソフトが動くことを指し、シミュレーションやビッグデータ、AIなど、幅広いアプリケーションで最高性能を発揮するように設計されています。また、CPU※2には世界中のスマホやゲーム機に搭載されているCPUと同じくArm社仕様の命令セットを採用しているので、それらのソフトウェアすらそのまま、そして何十倍も高速に動き、「富岳」用に開発された技術(「富岳」テクノロジー)と「富岳」から生まれた成果の両方が世界中に普及し、さまざまな場面で活用されることが期待されます。

  • 2 中央演算処理装置。コンピュータの頭脳にあたり、その基本性能を決める重要な部品。制御やデータ処理を担う。「富岳」に搭載されているA64FXは、Arm社が制定した仕様で、スマホなどにも使われる命令セットをHPC用に拡張した世界初のCPU。

一方、「富岳」のアプリケーション実効性能は「京」の最大100倍以上で、計算速度は1秒間に44京2,010兆回に達し、主要な性能も現状では競合マシンを圧倒※3しています。「富岳」が2〜3台あれば日本全体のスマホやサーバの年間出荷分と同等のITをカバーでき、速くて大きなマシンであることがわかります。

  • 3 2020年6月時点で、演算速度性能を示す「TOP500」、実アプリケーションの実行性能を示す「HPCG」、AI性能を示す「HPL-AI」、そしてビッグデータ解析性能を示す「Graph500」の4部問で世界第一位を獲得しました。これら4つのランキングすべてにおいての第1位獲得は、「富岳」の総合的な性能の高さを示すものです。日本が目指す社会、新たな価値を生み出す超スマート社会の実現を目指すSociety 5.0において、シミュレーションによる社会的課題の解決やAI開発および情報の流通・処理に関する技術開発を加速するためのHPCインフラとして、「富岳」が十分に機能できることを実証するものです。
図:「富岳」テクノロジーの広がり
「富岳」テクノロジーの広がり
「富岳」のために開発されたテクノロジー(Arm仕様としては初のHPC向けCPU「A64FX」など)は国内外で広がりを見せている。

このような「普通で高性能」が「富岳」の特長です。普通のソフトが動かない特殊な高性能マシンを開発しても、社会のインフラとしては機能しません。世界最高水準の性能を幅広い分野で「普通」に活用できることこそ、「富岳」がSociety 5.0に不可欠なHPCインフラとして期待される理由なのです。


「富岳」という名称の由来

”富士山”の異名である「富岳」という名前もこのマシンの特長を表しています。富士山の高さがスーパーコンピュータ「富岳」の性能の高さを表し、また富士山の裾野の広がりがスーパーコンピュータ「富岳」のユーザーの拡がりを意味しています。

図:「富岳」の名に込められた意味
「富岳」の名に込められた意味
「富岳」の特長は性能の高さに加え、ユーザーの幅広さ。日本一の高さと広い裾野を持つ富士山の姿に重なることから、「富岳」と名付けられた。