トップページ  >  イベント・広報  >  お知らせ一覧  >  【成果創出加速プログラム】生体膜カルシウムイオン輸送の分子機構を解明

理化学研究所(理研)計算科学研究センター粒子系生物物理研究チームの杉田 有治チームリーダー(開拓研究本部杉田理論分子科学研究室主任研究員)、小林千草技師、ジョン・ジェウン研究員(開拓研究本部杉田理論分子科学研究室専任技師)らの共同研究チームは、細胞内のカルシウムイオン輸送をつかさどるカルシウムイオンポンプによって、カルシウムイオンが小胞体へ放出される過程を計算機シミュ―レーションを用いて計算し、カルシウムイオン輸送の分子機構を明らかにしました。

スーパーコンピュータ「京」を利用して得られた成果です。詳細は下記をご覧ください。

「富岳」成果創出加速プログラム

背景と成果のポイント

私たちの体を構成する細胞は、その一つ一つが細胞膜で囲まれています。細胞の内部には、さらにいくつもの細胞内小器官と呼ばれる構造体があり、それぞれ特徴的な膜で囲まれています。細胞膜や細胞内小器官の膜には様々なタンパク質が埋め込まれており、特定のイオンが膜を横切って移動するのにかかわるタンパク質をイオンポンプと呼びます。カルシウムイオンポンプはカルシウムイオンを輸送します。

膜の片側から反対側へイオンを輸送するにはエネルギーが必要ですが、ある種のイオンポンプは、生体内のATP分子を分解して得たエネルギーをイオンの輸送に使います。このようなタンパク質を、P型ATPアーゼと呼ばれます(「アーゼ」とは「分解するもの」の意味)。カルシウムイオンポンプは、代表的なP型ATPアーゼの一つです。

何種類ものサブタイプがあるカルシウムイオンポンプのうち、筋肉を構成する筋細胞の中にある小胞体という細胞内小器官の膜に存在するカルシウムイオンポンプ、SERCAは、小胞体の内部にカルシウムイオンを取り込んで貯め込むことにより、外部のカルシウムイオン濃度を下げて筋肉を弛緩させる役割を果たします。

今回、R-CCS粒子系生物物理研究チームの杉田チームリーダーらは、SERCAがカルシウムイオンを小胞体内部へ運ぶ仕組みを、スーパーコンピュータを使ったシミュレーションによって明らかにしました。

SERCAがATPを分解し、カルシウムイオンを運ぶ過程には、何段階ものステップがあります。これまでのX線を用いたSERCAの構造解析では、いくつかのステップにおける静的構造(スナップショット)が明らかにされてきました。しかし、スナップショットとスナップショットをつなぐ動的な構造変化は、従来の方法では解析できませんでした。杉田チームリーダーらは、2つのスナップショットの状態を、GENESISという分子動力学計算ソフトウェアを使って計算しました。さらに、ストリング法という手法を導入して、解析の最も難しかった1つ目のスナップショットから2つ目のスナップショットに至る経時的な構造変化を解析しました。これらの手法と、スーパーコンピュータ「Oakforest-PACS」や「京」の優れた演算能力により、SERCAがカルシウムイオンを小胞体内部へ放出する分子メカニズムの詳細を明らかにすることに成功しました。

生体内には多種類のイオンポンプがありますが、それらの構造はよく似ていることがわかっており、今回明らかになったSERCAの構造変化の分子メカニズムは、他のイオンポンプにも共通したものである可能性があります。今後は、「京」につづく「富岳」のさらに高い演算能力を用いて研究を進め、生体内で重要な役割を持つ多くのイオンポンプの働きを分子レベルで明らかにすることで、生命活動の仕組みを理解するだけでなく、創薬・医学の発展に大きく貢献することが期待されます。

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(2021年9月28日)