理化学研究所 計算科学研究センター

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【講演概要を掲載しました】京×ポスト京シンポジウム ~シミュレーション・AI・ビッグデータ~(2019年1月18日・東京)

講演プログラム

13:15-13:45 スーパーコンピュータの歴史から将来を見る
小柳 義夫(高度情報科学技術研究機構 サイエンスアドバイザー/東京大学名誉教授)
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13:45-14:15 高速道路ネットワークの地震リダンダンシー評価の可能性
金治 英貞(阪神高速道路株式会社神戸建設部 部長)
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14:15-14:45 計算シミュレーションの高分子材料基盤技術開発に向けた期待
中瀬古 広三郎(住友ゴム工業株式会社 技監)
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15:05-15:35 カジュアルなスーパーコンピューター
鬼頭 周(ソフトバンク株式会社 常務執行役員 事業開発統括 ソリューション戦略開発室長)
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15:35-16:05 人工知能とシミュレーション
辻井 潤一(産業技術総合研究所人工知能研究センター センター長)
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16:05-16:35 次世代高性能ARMプロセッサによるHPCとAIの統合
松岡 聡(理化学研究所計算科学研究センター センター長)
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小柳 義夫「スーパーコンピュータの歴史から将来を見る」

小柳 義夫 写真

コンピュータ(電子計算機)が登場して70年になるが、その間に1014倍という驚異的な性能向上を遂げ、今後もとどまるところを知らない。日本は後発であったが、1990年代にはアメリカと肩を並べるまでに至った。日米貿易摩擦が起こったのはこのころである。日本では、大学・研究所のみならず産業界もアメリカ以上に積極的にスーパーコンピュータを導入し、多くの成果を上げてきた。これに対しアメリカはHPCCやASCIなどの国家的プロジェクトを推進して反撃し、リーダーの座を回復するとともに積極的な利用を進めてきた。その後、日米に欧州・中国が加わってスーパーコンピュータの開発・利用を競っている。

マスコミでは「世界一位」などピーク性能的なものだけが注目されているが、重要なことはその利用によりどれだけ社会的・科学的な諸問題を解決できるかである。アメリカや中国と異なり、日本製のスーパーコンピュータはユーザ主導で開発されてきたという経緯があり、ピーク性能以上に使い勝手のよいコンピュータとして定評がある。この特徴は今後のポスト「京」コンピュータでも継承されるものと思われる。

なぜペタ(1秒間に1015回演算)やエクサ(同1018回)というような膨大な計算が必要かというと、大規模複雑系の振る舞いを、構成要素の基礎方程式により追跡するためである。現実の自然現象や設計対象は極めて複雑であり、スーパーコンピュータの登場により初めて「実物」を計算(シミュレーション)することが可能になった。これにより、基礎的な科学が進歩するとともに、産業界の様々な応用を支援できるようになった。スーパーコンピュータなしには、自動車も医薬品も作れず、天気予報もできない。今や、国家の基幹技術である。今後は、社会経済現象などさらに広い分野に対してもシミュレーション技術が活用されてゆくものと思われる。

近年、大規模観測・測定機器が設置され、膨大なデータが蓄積されている。またインターネット上には常時膨大なデータが流れている。このようなデータから、スーパーコンピュータの膨大なパワーを用いて、シミュレーションと連携させたり、人工知能の機械学習を適用したりすることにより、有用な情報・予測を取り出す研究も行われている。これをデータ科学というが、データ科学はシミュレーション科学と並んで、今後のスーパーコンピュータ利用の主要な柱となっていくものと思われる。 ⇒ページトップへ戻る


金治 英貞「高速道路ネットワークの地震リダンダンシー評価の可能性」

金治 英貞 写真

1995年の兵庫県南部地震において、阪神高速道路は建設当時の耐震設計基準を満たしていたにも関わらず、設計上の想定を超える地震動により甚大な被害を受けた。さらに2011年の東北地方太平洋沖地震や2016年の熊本地震においても、設計上の想定と異なる事象が発生し、数多くの構造物が被害を受けた。これらの最近の地震のみならず、地震と構造耐震設計の歴史において、大規模な地震が発生して甚大な被害を受ける度に、必要に応じて設計地震動が見直されてきた事実がある。

より信頼性の高い道路ネットワークを目指した場合、これまでのような既往の発生地震と地震被害に基づく一義的な設計地震動だけでなく、可能な限り様々な地震に備える必要がある。また、ネットワークでの道路機能確保を考えた場合、個々の橋レベルでの安全性照査では限界があると考えられる。このため、様々な地震動シミュレーションにより被害程度を想定しておくことが重要であり、橋梁単位の地震応答解析ではなく、広域の地震応答シミュレーションを行い、路線単位の損傷程度を評価することが重要である。

このような大規模な地震応答シミュレーションを行うためには、大容量の計算資源が必要となるが、近年、理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」をはじめとする大規模計算機が国内の研究機関や大学に整備され、このような解析を容易に行うことができる環境が整いつつある。著者らは、2014年より、「京」を用いた基礎研究として、仮想の延長20kmの連続高架橋を対象とした解析を皮切りに、1995年兵庫県南部地震で被害を受けた東神戸大橋の損傷過程の再現解析や阪神高速道路ネットワークの解析を実施してきた。

ここでは、複雑システムである長大橋の解析精度を実被害との比較で確認した上で、都市直下型と海溝型地震における阪神高速道路ネットワークを対象とした応答解析が実行可能であることを紹介する。具体的には、橋脚単体のみならず、全構造物の応答加速度や応答変位により、路線単位での損傷程度を推定できる可能性を示す。また、様々な震源域を想定したシミュレーションにより、俯瞰的に地震動による異なる被害特性を評価できる可能性を示す。さらに今後の展望として、本研究が、Society5.0のスキームにも連動していることを示し、リダンダンシーをキーワードに、より安全、安心、快適な高速道路の設計・管理・運営に有効であることを言及する。 ⇒ページトップへ戻る


中瀬古 広三郎「計算シミュレーションの高分子材料基盤技術開発に向けた期待」

中瀬古 広三郎 写真

タイヤは、車両重量を支える、走る、曲がる、止まるという自動車の基本機能を担う重要な部品です。一方、タイヤにも、他の多くの自動車用部品と同様に、地球温暖化問題や化石燃料枯渇問題などの環境問題への対応が求められます。地球環境への配慮と安全・安心を両立する高性能・高品質なタイヤを開発するためには、特に、高性能なゴム材料をスピーディーに開発することが重要となっています。なかでも、タイヤの軽量化による自動車の燃費(電費)性能の向上、省ゴム資源化といった地球環境への更なる対応のために、耐摩耗性に優れた高性能タイヤ用ゴム材料の開発が求められています。

タイヤ用のゴムは、骨格となるポリマーを始めとして、シリカ、カーボンなどの補強材や、オイル、レジンなどの添加剤、更にはポリマー同士を繋ぐ硫黄架橋剤、シリカとポリマーを繋ぐシランカップリング剤など多くの材料から構成されており、これらの材料が密接に関係し合ってゴムの特性を発揮しています。高性能なゴムを開発するためには、材料とゴムの特性の関係を詳しく理解し、その能力を最大限発揮させる事が重要となります。

そこで当社では、大型放射光施設SPring-8*1・大強度陽子加速器施設J-PARC*2・京コンピュータ*3を連携活用することで、ゴムを分子レベルで忠実に再現したシミュレーション解析を実現させ、タイヤの相反性能である耐摩耗性能、低燃費(電費)性能、グリップ性能を向上させるゴム材料を開発する技術ADVANCED 4D NANO DESIGNを開発しました(図1)。

講演では、京コンピュータを活用して耐摩耗性能に優れるゴム材料を開発し商品化した事例を紹介するとともに、ポスト京コンピュータの活用により進展が期待される今後のゴム材料の研究開発について述べます。⇒ページトップへ戻る

*1 世界最高性能の放射光を生み出すことができる大型放射光施設(兵庫県佐用郡佐用町)
*2 最先端研究を行うための陽子加速器群と実験施設群(茨城県那珂郡東海村)
*3 世界有数の計算速度を誇る、スーパーコンピュータ(兵庫県神戸市中央区)


鬼頭 周「カジュアルなスーパーコンピューター」

辻井 潤一 写真

現在、私達を取り巻く環境は劇的に変化している。

今後インターネットへつながる物(IoT)がパソコンやスマートフォンだけでなく車や自転車、家電製品、健康器具、ロボット…など爆発的に増えていきそれに伴いデータは指数関数的に増加して行く。
これからは指数関数的に増加するデータを保有し、そのデータ活用してビジネスへ適用できる企業が勝ち残る時代がくる。

そして企業が勝ち残るためには何が必要か?

データを価値へと変換させる強力な処理能力を持ったコンピューターが必要となる。
このため弊社は次世代のARMチップを利用したスーパーコンピューターに非常に関心を持っている。

現在スーパーコンピューターは災害シミュレーションなど多くの社会的問題解決に活用され社会に貢献しており、この貢献に対し私は敬意を払う。
ただし次のスーパーコンピューターはもっとカジュアルに利用できるものが欲しい。
つまり民間企業がアマゾンのクラウドサービスのように使えるものでなければならないと考える。

巷ではピーク性能で世界一という言葉が聞かれるが、性能は勿論だが企業利用数世界一という指標もかかげていただきたい。

多くの民間企業がスーパーコンピューターをカジュアルに利用し、それが日本の経済の成長を牽引する――
これがユーザーとしての私の描くカジュアルで解放されたスーパコンピューターの近未来となる。
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辻井 潤一「人工知能とシミュレーション」

辻井 潤一 写真

人工知能は、ビッグデータ解析からさらに一歩進んで、データに基づいて判断、予測、行動までを行う自律的なシステムとして、人間生活の様々な局面を変革しつつある。この変革は、サイバー空間での情報の推薦システム、効果的な宣伝の提示など、サイバー空間に閉じた世界から飛び出し、人間の感情や行動の読み取りと操作、医療診断から自動運転や製造現場のロボットに至るまで、物理空間へとその影響をひろげている。

人工知能による変革は、科学や技術の研究開発にも及んでいる。シミュレーションを主体とした計算科学から、データにもとづく科学という、いわゆる第4のパラダイム(the 4th paradigm)への移行が提唱されてきた。この流れは、データ解析から機械学習、さらには、データと知識の融合へと向かい、第3のパラダイム(計算科学)と第4のパラダイムの融合、いわば、第5のパラダイムへと向かっているように見える。この研究パラダイムの急速な変革は、京に代表されるスーパーコンピュータ技術と、機械学習・深層学習を支えるデータ指向型のコンピュータ技術や巨大で多様なデータベースの管理・運用技術とを統合した次世代のスーパーコンピュータを必要としている。

本講演では、2015年に設立された産業科学総合研究所・人工知能研究センター(AIRC)での研究を紹介し、本年度8月から運用を開始した人工知能用コンピュータ(ABCI)の現状を報告する。特に、(1)世界で最短の学習時間を達成した膨大な画像データからの深層学習モデルの構築、(2)深層学習における最適なハイパーパラメータの決定アルゴリズムの実装、(3)地球規模の衛星画像の処理実験、(4)大規模な人流データの解析とシミュレーション実験など、現在、我々のセンターで行われている大規模データを使ったAI研究の現状について述べる。

また、機械学習とシミュレーションの統合、データと知識の融合は、今後の人工知能の大きな流れとなると信じている。この方向での研究として、AIRCとNECとの連携研究室での研究事例、機械学習を使った蛋白質と化合物との結合情報の予測、創薬や医療における人工知能の活用例について、報告する。

最後に、計算科学と人工知能の融合は、現在、その黎明期にある。その発展に向けて、どのようなテクノロジーが必要となるかについて、私見を述べる。⇒ページトップへ戻る


松岡 聡「次世代高性能ARMプロセッサによるHPCとAIの統合」

松岡 聡 写真

ポスト「京」のプロセッサである富士通A64fxは、理化学研究所 計算科学研究センターを中心とした多くの我が国のHPC研究者と、富士通などとのコデザインによって設計された。これにより、A64fxは同時代のプロセッサの性能や省電力性を遥かに上回りつつ、年間億単位で生産されるARMプロセッサのエコシステムの頂点に立つ事が期待されている。

更には、コデザインにより、GPUと同様の機械学習用の加速機能も内包されており、これらにより、HPCとAIが加速されると期待されている。本講演では、そのようなA64fxプロセッサを高性能AIの観点から紹介する。⇒ページトップへ戻る