大規模数値計算により素粒子の基本法則を探る
素粒子の基本法則として数多の実験観測事象を説明する標準模型からの重要な予言(高温や高密度の極限状態での標準模型の振る舞いや、ハドロン反応を用いた標準模型の精密検証と標準模型を超える物理の探索など)は、標準模型中のQCD(量子色力学)の複雑な動力学を数値的に解くことで初めて得られる。ここで用いる格子QCDの数値計算は、近年現実的なパラメタ設定で行うことが可能になってきており、さまざまな物理過程に対して第一原理からの予言を行うことが可能となってきた。しかし、残された問題も数多く存在し、そこでの系統誤差の制御には、連続時空で実現していた対称性の多くを格子上でも保つ妥協のない手法による解析が有効である。これらの研究のために「富岳」の能力を最大限に発揮させるべく、アルゴリズム、解析手法の開発、コード開発を行うとともに、既存の計算機による研究を並行して進めていく。模型の第一原理からの計算の結果が、その模型が担うエネルギー階層の上下との橋渡しとなり、開闢から現在にいたる宇宙の進化と物質生成のメカニズムの理解につながることを目指す。
おもな研究内容
相転移近傍2フレーバーQCDの新奇な振る舞い
2フレーバーQCD は現実世界のQCDの理想化近似モデルであるが、その相転移の性質は転移次数を含めて未解決である。この問題に取り組むために、クォークの質量が小さいかゼロの極限で重要になるカイラル対称性を実現する格子形式を用いて大規模数値計算を行っている。図(JLQCD共同研究による)は、カイラル対称性の回復する相転移温度より高温側で、クォーク質量の関数としてトポロジカル電荷の感受率をプロットしており、クォーク質量(m)が10 MeV 近傍で相転移の兆候が見られる(相転移温度T=220 MeV)。m=0での相転移温度がT=175 MeVほどであることからみて、クォーク質量依存性が驚くほど大きいといえる。この結果を受けてOakforest-PACS 上で異なる体積の計算を行い、相転移の有無の検証と次数の同定を進めている。また、これらの研究に必要なコードも並行して開発している。今後は、動的なクォークフレーバー数を現実世界と同じ3に増やした場合の相転移の解明、さらに標準模型の精密検証と標準模型を超える物理法則の探索を目指しており、そのための計算を「富岳」で行うための開発を行っていく。
2フレーバーQCDにおけるトポロジカル感受率のクォーク質量依存性
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