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「富岳」が性能ランキングで世界初の4冠達成!それぞれのランキングで求められる性能とは?

2020年6月、理化学研究所と富士通株式会社が共同で開発しているスーパーコンピュータ「富岳」が2021年度の本格稼働を前に、早くもスパコンに関する4つの性能ランキングにおいて世界第1位を獲得しました。史上初の4冠達成です。4つの性能ランキングとは、「TOP500」、「HPCG」、「Graph500」、そして、「HPL-AI」です。

性能ランキングでは、指定されたベンチマークプログラム(評価基準となるプログラム)を使って、性能を競います。今回は、それぞれどのような性能ランキングなのかについて解説します。

「TOP500」で1位、世界最高速の証し

まず、「TOP500」は、スパコンの性能評価で、最も有名なランキングで、「LINPACK(密行列の直接解法)」と呼ばれるベンチマークプログラムの平均計算速度を競うものです。

1993年から毎年6月と11月の年2回ランキングが発表されています。「富岳」の前の「京」も、2011年6月と11月に世界第1位を獲得しました。

そもそもコンピュータにおいて計算に使う数値は、「浮動小数点」という形式でメモリーに格納されています。浮動小数点には、計算できる精度によって、「倍精度」、「単精度」および「半精度」があります。それぞれの精度で使用される数値のビット数は、倍精度が64ビット、単精度が32ビット、半精度が16ビットです。LINPACKは倍精度を使って演算処理するプログラムで、今回のランキングでの「富岳」のLINPACK性能は、倍精度の演算で415.5 PFLOPS(ペタフロップス)※1でした。

TOP500を見れば、約30年間にわたるスパコンの性能の推移がわかることから、これから将来、スパコンの性能がどのように向上していくのかの性能予測にも使われています(図1)。

また、ベンチマークプログラムはシステム全体を用いて4~10時間にわたって実行することが求められることから、計算速度に加え、システムが故障することなく、長時間稼働できることも重要な評価ポイントになります。

  • 1 ペタフロップス:フロップスはコンピュータの処理能力の単位で、1秒間に浮動小数点演算を何回できるかという能力のこと。ペタは10の15乗。

実利用の能力を測るために設定されたランキング「HPCG」

一方で、TOP500のLINPACKの計算がいくら速くても、実際のアプリケーションプログラムが必ずしも速いわけではない、ということが近年、指摘されています。TOP500は演算の性能が主であり、実際のアプリケーションに必要なメモリーアクセス性能が十分に反映されないためです。

そこで、2014年に新たな性能ランキングとして設定されたのが「HPCG」※2です。これは、産業利用など実際のアプリケーションで使用されている数値計算アルゴリズムを用いたプログラムをベンチマークプログラムとして採用して性能を評価するランキングです。HPCGとは「共役勾配法」といわれる数値解法を用いたプログラムで、たとえば、インフラの構造解析などに多用されています。また、HPCGでは、計算性能だけでなく、メモリーへのアクセス性能も非常に重要な評価ポイントになっています。ちなみに「京」も、2016年11月から3期連続で第1位に輝いています。

  • 2 HPCG:High Performance Conjugate Gradient 疎な係数行列から構成される連立一次方程式を解く計算手法である「共役勾配法」(conjugate gradient method)を用いた新たなベンチマークプログラム。

大規模グラフの探索能力を競う「Graph500」

「Graph500」は、実社会における複雑な現象を表現するために用いられる大規模なグラフの探索能力に関する性能ランキングです。グラフとは、図2のように、頂点と枝によってデータ間の関連性を示したものです。

グラフを使って道路網や無線通信ネットワーク網、脳細胞のニューラル・ネットワークなど多くのものがグラフで表現できますので、グラフを高速に探索できることで、さまざまな現象の解析が可能になります。

Graph500では、計算性能だけでなく、メモリー性能やネットワーク性能も重要な評価ポイントになります。「京」は引退するまで長年にわたり、第1位を維持してきました。

現在、Graph500には、「BFS」※3と「SSSP」※4という2つの性能指標があります。まず、BFSはスタートの頂点につながっているすべての辺を調べ、さらにその辺につながっているすべての頂点を調べていくことにより、グラフのすべての頂点に到達する経路を見つけるまでにかかる計算時間を競うというものです。一方、SSSPは、スタートの頂点からすべての頂点への最短経路を求めるベンチマークです。「京」と「富岳」は、BFSの性能指標で、世界一の記録を達成しました。

  • 3 BFS:Breadth First Search
  • 4 SSSP:Single Source Shortest Path

AIに関する計算能力を評価する「HPL-AI」

「HPL-AI」は、2019年11月にルールが公表されたばかりの最も新しいベンチマークです。ディープラーニングなど人工知能(AI)による処理性能を評価するために設定されました。今回が初めてのランキング発表となりました。

TOP500が、倍精度によりLINPACKの計算速度を競うのに対し、HPL-AIは、倍精度よりも低い精度の浮動小数点演算によってLINPACKの計算速度を競う性能ランキングです。

近年、ディープラーニングなどAIを使ったアプリケーションプログラムでは、低精度演算が用いられることから、HPL-AIのベンチマークでは、低精度演算によってLINPACKの計算速度を競うことで、間接的にAIの計算性能を評価しているのです。

使い勝手のよいスパコンを目指したことが4冠につながった

様々な用途によって、スパコンに求められる性能は大きく異なります。したがって、このような異なる4つの性能ランキングにおいて、「富岳」が世界第1位を獲得したということは、たとえていえば、まったく異なる種目のすべてで第1位を獲得したようなものです(図3)。

とはいえ、「富岳」は性能ランキングにおいて、ベンチマークの性能ランキングの世界第1位を獲得することを目的に開発したわけでは決してありません。開発において最もこだわった点は、幅広い分野において、「使い勝手が良いスパコン」「画期的な成果を創出できるスパコン」を実現することです。これこそが、高さ(高性能)と広い裾野(幅広い応用分野)を兼ね備えるという「富岳」の名前に込められた開発目標です。

そのため、「富岳」の研究開発プロジェクトでは、CPUをはじめとするシステムを開発する側と、「富岳」を使ってさまざまな研究を行うアプリケーション側の双方が協調しながら開発を進めました。このようなシステムとアプリケーションの協調的な開発手法は、「コ・デザイン」と呼ばれています。そして、それぞれのアプリケーションにおいて最高の性能を目指した結果として、多様なベンチマークにおいて4冠を獲得できたというわけです。つまり、今回の快挙は、「富岳」の開発目標が見事に達成されたことを証明しているといえます。

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(2020年11月11日)