トップページ 研究活動 研究成果 ピックアップ 新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する条件をシミュレーションにより推定 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その5
新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する条件をシミュレーションにより推定 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その5
新型コロナウイルスの感染拡大を抑制する条件をシミュレーションにより推定 ~「富岳」による新型コロナウイルス対策その5
離散事象シミュレーション研究チーム チームリーダー 伊藤伸泰
今回は、離散事象シミュレーション研究チームをはじめとする共同グループによるスーパーコンピュータ「富岳」を使った「パンデミック現象および対策のシミュレーション解析」を紹介します。これは、新型コロナウイルスが、感染者の潜伏期間中や無症状感染者により、どのように拡散するかをシミュレーションすることで、有効な感染防止対策を評価、推定しようというものです(2020年11月取材)。
(代表者:理化学研究所 計算科学研究センター 離散事象シミュレーション研究チーム チームリーダー 伊藤伸泰)
「感染モデル」を使って感染拡大の様子をシミュレーション
世界中で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に歯止めがかからない状態が続いています。新型コロナウイルスの怖いところは、まず、感染しても潜伏期間が平均5~6日もあり、その間にほかの人を感染させる危険性があることです。また、症状が出ない無症状者も少なくありません。無症状者の場合、自分では気づかぬうちに、周囲の人を感染させている可能性があります。つまり、現在、感染が確認されたら隔離することで、新たな感染者を出さないよう措置を講じているものの、隔離以前に感染させている可能性があるわけです。
「再生産数」を小さくすることが感染拡大を抑えるのに不可欠
今後、新型コロナウイルスの感染が、拡大するか収束するかを予測する際に、最も重要な判断基準として、「再生産数」があります。これは、「1人の感染者が、何人の未感染者を感染させるか」の平均値です。この値が1よりも大きければ感染は拡大し、1よりも小さければ収束します。この再生産数を1よりも小さく抑えることが、感染拡大を抑えるために不可欠です。
再生産数は、感染者数の変化から推定できます。ある感染防止対策を導入したときに、その後、再生産数が減っていれば、その感染防止対策は有効だったといえます。現在、感染防止対策として推奨されているマスク・消毒・手洗いを徹底する、換気をよくする、在宅勤務を取り入れる、外食を減らすなどは、いずれも再生産数を下げる手段です。
一方で、再生産数が0.6よりも大きい場合は、1より小さくとも感染クラスターが発生してしまうことが予測されました。発生した集団に限るとそれなりの感染者数が発生してしまいますので、感染のリスクが目に見える形に顕在化するわけです。再生産数が0.6よりも小さい場合は、感染クラスターの発生はまれでした。
さらに、再生産数が1よりもずっと大きい場合は、1つの集団にいる感染者が、感染クラスターを発生させると同時に、別の集団の感染を引き起こすという連鎖反応が起こり、感染者数が激増することも確認されました。これは全国レベルでの人の移動に伴い、感染が全国各地に飛び火し拡大することに相当します。
接触追跡アプリケーションの効果を確認
社会経済活動の抑止による影響をシミュレーション
「富岳」の計算性能を生かしさまざまな条件でシミュレーション
新型コロナウイルスの感染拡大の要因については、感染経路なども含め、不明な点が非常に多いことから、予想しうる可能性をできる限り検証することが求められます。その点において、「富岳」は、一定の時間内に、何百通りものシミュレーションを実行できるため、シミュレーション結果と、現状を比較・検討することで、実際にどのようなことが起こっているのかを推定するヒントになり、より有効性の高い対策を立てられるようになると期待されます。
今回は、1つの集団における感染クラスターについてシミュレーションしましたが、今後は、複数の集団間の移動を想定したシミュレーションを実行する計画です。そのためには、コンピュータ「京」の約100倍の計算性能をもつ「富岳」の威力が発揮されるものと期待しています。
また、「富岳」は、人工知能による分析も得意としています。そのため、今後、感染シミュレーション結果の分析に深層学習などの人工知能の活用も検討しています。それにより、人力だけに頼った分析だけでは見えてこない新たな発見があるかも知れません。
離散事象シミュレーション研究チームをはじめとする共同グループでは、未来社会に向け、世の中のすべての人々の幸福度向上を目標に、「富岳」などスーパーコンピュータの活用を通して、社会的課題を解決する取り組みを行っています。今回紹介した感染シミュレーション、経済シミュレーションも、その一環です。1日も早い新型コロナウイルスの収束と経済活動の回復に向け、引き続き、有効な解決策を探っていきます。
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(2021年9月1日)