ハロー!スパコン 富岳版

第8回 コンピュータの未来みらい

キャラクターアイコン:タイチ

富岳ふがく」の次のスパコンは、いつできるの?

キャラクターアイコン:スパやん

富岳ふがく」ができたばっかりやのに、ずいぶん気が早いなあ。

キャラクターアイコン:えくささん

たぶん10年以内いないには、次のスパコンができると思うよ。

キャラクターアイコン:コンちゃん

でも、これまでと同じやり方では、これ以上いじょう計算を速くできないのでは?

キャラクターアイコン:ももせさん

そうなの。だから、ちがうやり方を研究している人たちもいるわ。スパコンは計算速度が大事だけど、それだけじゃないからね。

キャラクターアイコン:ふがくん

えー? どんなやり方なの?

キャラクターアイコン:えくささん

富岳ふがく」はすばらしい計算能力のうりょくをもっていますが、スパコンにもとめられる計算能力のうりょくにはきりがありません。
社会問題の解決かいけつや科学の研究のために「富岳ふがく」で計算を行うと、その結果けっかを見て、
「ここをもっと計算したい」という部分がきっと出てくるからです。
また、第7回でも説明せつめいしたように、Societyソサエティ 5.0の実現じつげんのために現実げんじつの世界のコピーを
スパコンの中につくろうとすれば、さらに高い能力のうりょくをもったスパコンが必要ひつようになります。

現在げんざいのコンピュータはスパコンでも、パソコンでも、半導体はんどうたいでできたCPUシーピーユーを使っています。シリコンという半導体はんどうたいの板の表面をとても細かく加工かこうして、トランジスタ(スイッチのようなはたらきをする部品ぶひん)をたくさんつくりこみ、電気でトランジスタのオンとオフをえることで、数を表し、足し算や引き算などを行っています。トランジスタの数をやすと計算を速く行うことができるため、スパコンをつくる人たちは、1つのCPUシーピーユーの中にできるだけたくさんのトランジスタをつくりこもうとがんばってきました。現在げんざいでは、1CPUシーピーユー(消しゴムほどの面積)の中に100おくものトランジスタをつくりこむことさえ、できるようになりました。

しかし、つくりこむトランジスタの数を今後もやし続けることは、むずかしくなっています。シリコン半導体はんどうたいの表面を細かく加工かこうする技術ぎじゅつ限界げんかいがあり、また、トランジスタがぎっしりまれていると、計算するときにたくさんのねつが出て半導体はんどうたいけてしまうからです。

このため、これまでとはまったくちが方式ほうしきで計算するコンピュータをつくろうという研究が行われています。その1つは、「量子りょうしコンピュータ」です。量子りょうしコンピュータでは、11の原子や電子がとても小さい磁石じしゃくのようにふるまうことを利用りようし、磁石じしゃくの向きで0と1を表します(図1)。そのために、特別とくべつ容器ようきに原子や電子を1ずつめたものを使います。これまでのコンピュータでは1のトランジスタが数字の0か1を表します(スイッチがオフのときは0で、オンのときは1)が、原子や電子の磁石じしゃくは0と1が重ね合わされた状態じょうたい(0であり、1でもある状態じょうたい)になっているため、トランジスタよりも多くの情報じょうほうを一度にあつかうことができます。

図1 量子コンピュータのしくみ

図1 量子りょうしコンピュータのしくみ
(a)原子や電子はとても小さな磁石じしゃく性質せいしつをもつ。この磁石じしゃくの向きで0と1を表す。この磁石じしゃくは、計算中は0と1が重ね合わされた状態じょうたい(0であり、1でもある状態じょうたい)にあり、計算結果けっかを見るときに0か1のどちらかに決まる。
(b)これまでのコンピュータではトランジスタが0か1のどちらかを表すが、量子りょうしコンピュータでは0と1が重ね合わされているため、磁石じしゃくが2あれば、トランジスタ8分の情報じょうほうを一度に計算できる。磁石じしゃくの数がえれば、情報じょうほうをまとめて計算できる効果こうかはどんどん大きくなる。

量子りょうしコンピュータには2つの方式ほうしきがありますが、どちらもこの磁石じしゃく性質せいしつをうまく利用りようしています。1つの方式ほうしき(「量子りょうしアニーリング方式ほうしき」とばれます)の量子りょうしコンピュータは最適化さいてきか問題という決まった形の問題を速くくことができると考えられています。すでにカナダの会社が販売はんばいしており、いくつもの研究機関けんきゅうきかん購入こうにゅうして使い方を研究しています。もう1つの方式ほうしき(「量子りょうしゲート方式ほうしき」とばれます)は、多くの企業きぎょうが開発を進めています。まだ、製品せいひんとはなっていませんが、2019年には、これまでのスパコンが苦手としてきた問題を圧倒的あっとうてきに速くけるという発表がありました。

もう1つの新しいコンピュータは、「ニューロモルフィックコンピュータ」です。ニューロモルフィックとは「神経しんけいの形をした」という意味です。のう神経しんけい細胞さいぼうと同じはたらかたをする回路(図2)を使ってのうをまね、その「のう」に計算をさせます。回路は、これまでのCPUシーピーユーと同じように半導体はんどうたい加工かこうしてつくる場合が多いですが、計算のしくみはまったくちがいます。のうをまねたものですから、AIエーアイの計算に向いており、使うエネルギーが非常ひじょうひくいのが特徴とくちょうです。また、のうはたらきを解明かいめいするのにも役立つと考えられています。いろいろな実験じっけんが行われていますが、まだ、製品せいひんはされていません。

図2 ニューロモルフィックコンピュータのしくみ

図2 ニューロモルフィックコンピュータのしくみ
(a)神経しんけい細胞さいぼうA、B、Cが刺激を受けると電気のパルスが発生する(これを「発火」という)。パルスは神経しんけい細胞さいぼう軸索じくさくを走り、シナプス結合けつごうを通して神経しんけい細胞さいぼうDに伝わる。Dに入った3つのパルスを足し合わせたものが、ある決まったあたい(しきい)よりも大きい場合にだけ神経しんけい細胞さいぼうDが発火する(パルスが出て行く)。のうの中のたくさんの神経しんけい細胞さいぼうの間では、いつもこのようなパルスのやりとりが起こっている。
(b)半導体はんどうたい加工かこうして、図のような要素ようそからなる回路をつくる。1つの神経しんけい細胞さいぼうにはたくさんのシナプスがある(紺色こんいろの長方形でしめす)。それぞれのシナプスにパルスが入ってくる。入ってきたパルスは足し合わされ、下段かだん神経しんけい細胞さいぼうに送られる。神経しんけい細胞さいぼうに入ったパルスの合計があるあたいよりも大きければパルスが出て行く。この動作を、多数の神経しんけい細胞さいぼうが同時に行う。

未来みらいのコンピュータは、計算が速いというだけでなく、これまでのコンピュータとはちがう「得意技とくいわざ」をもったものとなりそうです。みなさんが大人になるころのスパコンは、こうした新しい方式ほうしきのコンピュータが発展はってんしたものかもしれませんね。

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