
クイズ:「富岳」は1秒間に約40京回の計算ができます。
日本人全員(約1億2000万人)が、1秒間に1回計算するとして、
「富岳」と同じ回数の計算をするには、何年かかるでしょうか?
1.約1年
2.約10年
3.約100年
答え:3
1京は1億の1億倍ですから、1億2000万人で40京回の計算をするには日本人1人1人が33億回ぐらい計算をしなければなりません。1日は86,400秒ですから、33億回の計算をするには約4万日、つまり100年以上の時間がかかります。1億2000万人が100年かかる計算を「富岳」は1秒でやってしまうわけです。「富岳」はものすごく計算が速いことがわかりますね。
クイズ:「富岳」はどのぐらい広い部屋に置かれているでしょう?
1.学校の教室2つ分ぐらい
2.サッカーコート半分ぐらい
3.野球場3つ分ぐらい
答え:2
「富岳」は、サッカーコートの半分ぐらいの面積の広い部屋(計算機室)に置かれています。計算機室には、とても大きな冷蔵庫のような箱(「筐体」と言います)が約400台もあります。そして、1個の筐体にはCPUが約400個入っています(図1)。CPUを働かせるのに必要な電気を送る電線、CPUどうしをつなぐケーブル、CPUを冷やす水を流すためのパイプなどは、計算機室の床下に張り巡らされており、1つ1つの筐体につながっています。そして、筐体のなかでさらに枝分かれし、1つ1つのCPUにつながっています。CPUを冷やす水は銅の部品の中を通り、直接CPUに触れないようになっています。
図1 「富岳」の成り立ち
CPUは1つの台に2個ずつ固定されている。CPUは、熱を伝えやすい銅(赤茶色)の部品で覆われており、この部品の中を流れる水で冷やされるようになっている。CPUが2個乗った台(CMU)は、24個ずつ大きな台(Shelf)に固定され、筐体にはそのShelfが8個入っている。つまり、1個の筐体には、2×24×8=384個のCPUが入っている。その筐体が約400個集まったものが「富岳」である。
クイズ:「富岳」が全力で計算しているとき、1時間にどのぐらい電気を使うでしょうか?
1.4人家族の家の6ヵ月分
2.4人家族の家の6年分
3.4人家族の家の60年分
答え:2
「富岳」が全力で計算するときに使う電気の量(電力量)は、1時間で30メガワット時です。4人家族が1ヵ月に使う電力量は400キロワット時(※)ですから、これは約6年分(75ヵ月分)にあたります。ずいぶん電気を使うと感じるかもしれませんが、「富岳」は、なるべく電気を使わないで計算できるようにつくられています。第4回に出てきたように、「富岳」は「京」の40倍以上のスピードで計算できますが、全力で計算するときに使う電力量は「京」の2倍ほどですみます。「富岳」は計算能力だけでなく、省エネ性能もすばらしいのです。2019年には、完成前の「富岳」が、スパコンの省エネ性能を競う「Green500」というランキングで世界1位を獲得しました。
※総務省の家計調査(2019年)によると、4人世帯の1ヵ月の平均電気代は約12,000円。1キロワット時の電気代が30円として計算。
クイズ:「富岳」のCPUが働いているとき、どのぐらいの熱が出るでしょうか?
CPUを1メートル四方に敷き詰めた場合に出てくる熱の量は、電気ストーブ何台分だと思いますか?
答え:1
CPUが電気を使って計算すると、電気が熱に変わります。CPUは、温度が上がると計算まちがいをしやすくなるので、普通のパソコンではファンを回して空気でCPUを冷やしています。しかし、「富岳」のCPUは高性能で、パソコンのCPUと大きさは同じぐらいなのに何倍も多い計算ができるため、熱もたくさん出ます。その量は、CPUを1メートル四方に敷き詰めた場合、電気ストーブ80台分にもなります。ですから、空気だけで冷やすのではとても間に合いません。このため、CPUの近くに置いた銅の部品に水を流してCPUを冷やしています。
CPUを冷やすと水の温度が上がるので、その水は「富岳」の部屋からパイプを通して外に運ばれ、冷やされます(図2)。冷やされた水を、また「富岳」に送ってCPUを冷やし、いつも決まった温度に保っているのです。
図2 「富岳」を支えるさまざまな設備
計算機室は計算機棟の3階にある。2階には、計算機室の室温を決まった温度に保つための空調機械や、CPUを冷やして温まった水を冷やすための熱交換器、「富岳」に送る電気の電圧を調節するための変圧器があり、1階には、計算結果を溜めておくためのファイルシステムがある。熱交換器で水を冷やすためには、熱源機械棟という別の建物にある冷凍機で冷やされた別の水が使われている。「富岳」を冷やすための水を、さらに別の水で冷やしているのだ。「富岳」が高い計算能力を発揮できるのは、こうした周りの大きな装置がきちんと働いているからである。