5 「富岳」を用いた研究活動等

5-2 Society 5.0実現に向けた貢献

我が国が世界に先駆けてその達成を目指すSociety 5.0社会は、サイバー空間において社会のあらゆる要素をデジタルツインとして構築・解析し、最適な解(ソリューション)を求めた上で、フィジカル空間の制度、ビジネスデザイン、都市や地域の整備などに反映することにより社会を変革していく「サイバー空間とフィジカル空間の融合」が求められる。この実現のために、⾼度な解析を可能とするデータ解析技術 と大量のデータを扱うスパコンが必要となる。

「富岳」は、総合科学技術・イノベーション会議での「フラッグシップ2020プロジェクト(ポスト「京」の開発)」の中間評価において、「Society 5.0における研究開発基盤として生かされるよう他府省間や大学、研究機関間での連携をはかること、Society 5.0において重要となるビッグデータ、AI等のアプリケーションについても高い性能を有することを確認すること」と指摘されている。

このように、「富岳」は「サイバー空間とフィジカル空間の融合」を実証する研究開発基盤と位置づけられている。

さらに「富岳」は、後継機に向けて、スパコンを「計算のためのツール」から「社会変革のためのインフラ」へと着実に進化させることが期待されており、これにつながるように研究開発等に取り組んでいくことが必要である。

図1 Society 5.0で実現する社会のイメージ
図1 Society 5.0で実現する社会のイメージ

2021年度は、次のような取組を通じてソリューションモデルの創出やプロジェクトメイキング推進、「富岳」のプラットフォーム化及びその仕組みづくりを行った。

5-2-1 「富岳」Society 5.0 推進拠点の設置

『「富岳」のポテンシャルを活かし、国家情報インフラとしての投資効果と利用による経済効果という「二重の投資効果」の具体化・最大化に向け、「富岳」を舞台にしたソリューション創出のムーブメントを産み出す』ことを実現するための体制として、2021年度に「富岳」Society 5.0 推進拠点を設置した。これにより、R-CCSの研究力や運用技術力を活かすコーディネータ役としての機能、制度的課題を解決すべく関係機関との連携を強力に進める機能を強化した。さらに、理研におけるPI(Principal investigator)を中心に研究力強化を行うとともに、その知見を活かしたプロジェクトメイキングを担うための体制強化を実施した。

5-2-2 新型コロナウイルス対策を目的としたスーパーコンピュータ「富岳」の優先的利用

国難ともいえる新型コロナウイルス対策のため、2020年度にいち早く「富岳」を 試行的利用に供することで、「室内環境におけるウイルス飛沫感染の予測とその対策」をはじめとする多くの有用な研究成果を創出したが、2021年度は、さらに新型コロナウイルス対策のための研究に「富岳」を活用することで研究を加速し、多数の科学的成果をあげることができた。それとともに、国立競技場をはじめとする感染対策シミュレーションの適用事例を更に拡充するなど、社会に対する影響の面でも大きな役割を果たした。

5-2-3 地元自治体との連携

兵庫県及び神戸市からの補助を受けて実施する研究開発拠点(COE)形成推進事業により創出された「Society 5.0の実現」に資する研究成果については、地元自治体にその成果を還元し、地域の課題解決に貢献する等の観点から、成果の公表、アウトリーチ等を行った。また、神戸市が推進する「KOBE スマートシティ」に協働で取り組むため、神戸市、株式会社NTTドコモ及び理研での相互連携による事業推進を行うことに合意した。

5-2-4 民間企業、他の政府の戦略との連携創出に向けた協働

(1)民間企業との協働

日本IT団体連盟へ「富岳」の政策を超えたプラットフォーム化を提言し、日本IT団体連盟から政府への要望に反映された。また、民間企業との「シミュレーションファーストによる全体最適」のための社会情報基盤を目指した協働に向けた取組を推した。

(2)大阪・関西万博への協力

2025年に開催予定の大阪・関西万博はSociety 5.0 のショーケースでもあることから、「富岳」の成果が万博運営に十分に活用されるよう、運営機関と検討の枠組みを構築した。

(3)政府の戦略との連携創出に向けた協働

一般社団法人ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)と協働し、国内の製薬企業・ベンチャー・アカデミア等が創薬プロセスを加速するために広く利用可能な基盤として、30種類の創薬AI/HPC技術を「富岳」に実装する創薬DXプラットフォームの構築に向けた取組を推進した。また、内閣府のバイオ戦略に基づく関西圏の活動への貢献や、マテリアル分野での物質・材料研究機構(NIMS)中核プログラムとの協働に向けた取組を実施した。

5-2-5 「富岳」潜在的ユーザーの利用拡大のための技術的・制度的課題等の洗い出しと対応

「富岳」の利用を検討しようとしている潜在的なユーザーや、利用をためらっているユーザー候補者の利用障壁を下げるため、関係機関(文科省、RIST)と協力してポテンシャル・ユーザー対応WGを立ち上げ、有識者等も交えて意見交換を行った。意見交換から抽出された技術的課題や政策的課題を含め、課題解決のための施策を取りまとめた。これらを踏まえて、ファーストタッチオプションのスタート、主に産業界向けの利用マニュアルの作成と公開につなげた。