理化学研究所では、スーパーコンピュータ「富岳」を含む最先端研究プラットフォーム群を有機的に連携させ、革新的な研究プラットフォームを創出することで、研究DXの先駆的な研究基盤を機能させることにより、これらを活用した新たな価値創生に資する研究プロジェクト「Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms(TRIP)」を推進している。さらに、AIにより科学研究に新たな革新を生み出すものとして「AI for Science」が世界的に注目されている中、生命機能科学研究センター(BDR)、計算科学研究センター(R-CCS)など理化学研究所の知を集結してマルチモーダルの科学研究用のAI基盤モデルの開発・活用を推進する「科学研究基盤モデル開発プログラム (TRIP-AGIS: Advanced General Intelligence for Science Program)」を開始するため、2024年度の概算要求が認められ、予算措置が決定したことにより、2024年4月から正式に本プログラムが立ち上がることとなった。これを受けて、R-CCSではこれらが本格始動する前の準備期間として、具体的には以下に示すような取り組みを進めた。
昨今、AI技術を基礎科学研究に活用するAI for Scienceというキーワードが注目されており、次期計算機システムや計算科学ロードマップの検討において、AI技術の活用を視野に入れることが重要となっている。このため、HPCIコンソーシアムによる「計算科学ロードマップ」の新たな章・節として、理研を含む関係機関が中心となり、計算科学/AIに関連する専門家や研究者と共にAI for Scienceのためのロードマップを策定した。
2023年11月、米国エネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所(ANL)が中心となり、AI for
Science領域の研究に係る国際コンソーシアムとしてTPCが発足した。理研も、R-CCS松岡センター長、泰地TRIP-AGISプログラムディレクター他、関係研究者がメンバーとして参加した。この流れを受けて理研は、ANLを中心としたDOE傘下の研究機関と2024年1月31日にワークショップを開催し、AI
for Scienceを主題として、今後の理研-ANLでの連携課題に関する意見交換を行った。
※ここでの議論を踏まえ、理研はANLと2024年4月5日にAI for Science(AIを活用した科学研究の革新)に関する覚書を締結し、今後、さらに連携・協力を加速させていくこととなっている。
2024年2月2日、R-CCSの主催で『スーパーコンピュータ「富岳」シンポジウムAI for Science~変える、変わる 科学技術イノベーション~』を開催した。多くの方に「AI for Science」がもたらす価値への気づきと理解を深めていただくことを目的として、ANL副所長のRick L.Stevens氏による基調講演をはじめ、今後の科学技術の発展に向けた「AI for Science」というHPCの新たなコンセプトとそれに向けたR-CCSの取り組みを紹介し、各界の有識者と今後の展開について議論を行った。
これまでもR-CCSではAIを活用した科学研究を進め、多くの成果を出している。一例として、最新鋭の気象レーダーから取得される立体画像を学習データとして深層学習を適用することで、降水の非線形的な時空間変動を捉えた新しい降水ナウキャスト手法を開発した。これにより、雨雲の急発達や降水域の複雑な形状変化を予測可能とした。また30秒ごとに更新する「ビッグデータ同化」による数値天気予報の降水画像を同時に学習し、非線形的な最適ブレンディング予測を作成することが可能となった。30 秒毎に更新する数値天気予報の研究成果は、米国計算機学会のゴードン・ベル賞の気候モデリング部門の最終候補(ファイナリスト)に選出された。