「富岳」の利用においては、産業界が積極的に「富岳」を活用し、所期の成果を挙げて各社の研究開発が加速され、ひいては我が国の国際競争力が強化されることが強く期待されている。「富岳」の産業利用を効率的に推進するために産業利用推進部において、産業利用推進コーディネーター及び産業応用アプリケーションの主要分野に精通した支援員を配した体制を整備している。また、「富岳」の利用相談や支援を対面で受けたいとの関東の企業ニーズに対応するため、産業利用推進部の東京駐在を設置し、高度化支援や企業への普及促進活動を含む体制を整備している。2020年度は、この体制のもとで産業利用推進活動を実施した。
2020年度に産業利用相談・支援として実施した活動を下記5項目に分けて記載する。
課題申請前の時点から自社の課題にどのようにHPC技術を適用すれば解決できるかを相談できる、産業利用に関するコンシェルジュ的な相談業務を行っている。応募を検討している企業の多くが、「富岳」を使いこなせるのか、セキュリティは大丈夫か、などの不安を抱えており、相談の中でそれらが解消され、具体的な応募に至るよう努めた。神戸センターとアクセスポイント東京(産業利用相談・支援拠点)において、HPCIの利用相談として延べ31件に対応した。
2020年度は試行期間として「富岳」が運用され、2021年3月9日より共用が開始された。その試行期間中の企業への利用前技術支援として1社、また高度化支援として、「富岳」成果創出加速プログラム2課題(2社)及び利用準備課題3課題(3社)を実施した。
支援対象のアプリケーション・ソフトウェアは材料系のQuantum ESPRESSO(第一原理計算)、LAMMPS(分子動力学)、DFTB+(物性物理)(いずれもオープンソースソフトウェア)、及び流体系のFFX(格子ボルツマン法に基づく流体解析)、UPACS(流体解析)の5本であった。
これまでに実施した高度化支援の具体的な例は、HPCIポータルの利用支援のページに掲載している。
https://www.hpci-office.jp/pages/tuning_support
産業利用支援拠点であるアクセスポイント東京において、産業界における「富岳」を中核とするHPCIの利用を促進するため、技術的な利用相談や高並列計算の指導・助言、プリ・ポスト処理等の利用支援を実施した。
2020年度はアクセスポイント内のパーティションの設置など、新型コロナウィルス感染症対策を行ったが、対面による利用が難しく、また「富岳」が本格稼働する前の状況であったため、アクセスポイントの利用は無かった。その一方で、「富岳」本格稼働時に向けて、アクセスポイントのサーバーの更新を行い利用環境の整備を実施した。
一般的に、産業利用では評価が高く、自社の業務で使い慣れている有償ソフトウェアが使われることが多いが、「富岳」においては、オープンソースソフトウェア(OSS)や大規模シミュレーションの実績のある国家プロジェクトで開発・整備されてきたソフトウェアを利用する課題も多い。このような課題の利用相談で上位を占めるのは、ソフトウェアに関する内容であり、ソフトウェアの動作実績や入手方法、実行スクリプトの事例などである。
2020年度は、これまで「京」で整備してきたOSS(表1)を「富岳」上で整備した。「富岳」では、Spackレシピを用いたインストールを行うとともに、LAMMPS, QuantumESPRESSO, OpenFOAMについては、構築手順を情報共有CMSで公開した。
GROMACS | 分子動力学計算 |
LAMMPS | 分子動力学計算 |
OpenFOAM | 流体解析 |
Quantum ESPRESSO | 第一原理計算 |
また、HPCI利用研究課題への応募を検討されている方と利用者を対象に、HPCIポータルのソフトウェア検索ページに登録されている利用可能なソフトウェアの情報の更新を行った。
2020年度は産業利用の企業への普及・利用促進活動として、以下の活動を実施した。