スーパーコンピュータ「富岳」は、世界最高水準の使いやすさと性能をもつHPCインフラとして新型コロナウイルス感染症飛抹飛散シミュレーションや線状降水帯予測等を実現し、社会課題の解決に大きく貢献してきた。
R-CCSは、世界中のスーパーコンピュータが「富岳」と同様のHPCインフラとして利用可能となる「バーチャル富岳」構想に2022年度から着手した。「バーチャル富岳」は、HPCソフトウェアのデ・ファクト・スタンダード(事実上の標準)として、さまざまなアプリケーションを開発・実行可能なソフトウェアスタックを定義したものである。この標準ソフトウェアスタックを世界中のスーパーコンピュータ・センターが採用することにより、「富岳」や「バーチャル富岳」でアプリケーションを開発すると、どのスパコン・センターでも同時に利用可能となるという画期的なプラットフォーム戦略である。「バーチャル富岳」は、いわばスパコンにおけるiOSやAndroid、Windows OSのようなものである。iOSを搭載したスマートフォンやタブレット、さらにPCでは、どのデバイスでも同じアプリを同じ操作方法で使うことできる。アプリストアで検索すると、さまざまなアプリケーションを見つけることができ、ワンタッチでインストールすることができる。「バーチャル富岳」は、スパコンでこのような世界を現実のものにする。
このような「バーチャル富岳」の構築に向け、まず「富岳」のCPUと互換性のあるArmアーキテクチャベースのCPUのAWS Graviton3を用いたクラウドサービスを提供するアマゾンウェブサービス(AWS)社との間でMOU(Memorandum of Understanding、覚書)を締結し、「富岳」上のアプリケーションをAWS上でほぼそのまま実行できる、いわば「富岳」の機能がクラウド上に仮想的に再現されるソフトウェア環境の構築に向けた研究協力を開始した。さらに、コデザインにより「富岳」上で高性能化が達成されたアプリケーションの一つであるGENESISを素材として、Graviton3上で動作検証を行った。限定的な確認範囲ではあるが動作・性能とも「富岳」と遜色なく、A64FXとの互換性が確認できた。
AWS社は、これら一連の技術的検証・分析を行うための計算資源やGraviton3を扱う上での知見の提供を行った。 また、これを広く民間で活用できるようなビジネスモデルを構築すべく、AWSとともに、サービスプロバイダーとの連携について検討を始めた。