6 「富岳」の利用拡大等に向けた取組

6-1 富岳クラウドプラットフォーム

スーパーコンピュータ「富岳」のさらなる利用拡大及び利便性向上を図るため、「富岳」の計算資源を活用したクラウド的な利用サービス「富岳クラウドプラットフォーム」の導入を目指している。従来のHPC利用者だけでなく、利用者層と利用分野の双方を拡大し、だれもが迅速に、そして容易に「富岳」を利用できる環境を整備することが目標である。

6-1-1 富岳クラウドプラットフォームの概要

富岳クラウドプラットフォームの概要を図1に示す。従来からのHPCユーザーは社会的課題や学術的インパクトのある課題を実施する一方で、クラウド的な利用サービスでは今までHPCを直接利用できる機会や技術を持たなかった研究者や企業のポテンシャルユーザーに対し、HPCサービス提供事業者（サービスプロバイダー）の仲介を経て「富岳」の計算資源を提供する。サービスプロバイダーの仲介により、様々なエンドユーザーのニーズに柔軟に応えることが可能となり、「富岳」の利用者層と利用分野の双方の拡大につながることが期待される。

本取り組みは、2020年4月から2022年3月までの2年間を試行的実施期間とし、この期間に「富岳」の計算資源をエンドユーザーへ提供する方法を幅広く試行し、それぞれの効果を可能な限り定量的に評価した。また、本取り組みから得られた知見を「富岳」の運用や「富岳」のクラウド的な利用形態へ反映することを続けている。

6-1-2 富岳クラウドプラットフォームのサービス

富岳クラウドプラットフォームにおいて、それぞれのサービスプロバイダーが提供するサービスは大きく以下の2種類に分類される。

• 「富岳」のサポートや利用のコンサルティングサービス (サポートサービス)
• 「富岳」でのアプリケーション利用サービス (SaaS)

サポートサービスは、スーパーコンピュータを利用したことのない利用者向けに、「富岳」の利用申請方法や、利用者が実行したいアプリケーションの「富岳」へのインストール及び最適化、利用時に問題が生じたときの原因切り分けなどを行うサービスである。本プロジェクトにおいては、「富岳」の利用申請及びアカウント発行のプロセスに課題がみつかり、冗長な部分について簡略化を検討した。また、より迅速に利用者アカウントを発行するためにアカウント発行手続きのオンライン化を検討しシステムのプロトタイプを実装している。

SaaS （Software as a Service）は、サービスプロバイダーがアプリケーションを「富岳」に導入及び最適化し、それを利用者がアプリケーション利用サービスを介して利用する形態である。利用者は「富岳」の操作に関する知識がなくてもサービスプロバイダーが提供するアプリケーションを利用できる。本プロジェクトでは、SaaSを実現するにあたり、アプリケーションの「富岳」への移植や利用者へのアカウント発行方法、認証方法、課金管理方法などについて検討した。また、「富岳」をリモートから操作できるウェブAPIを実装し、クラウド的な利用のみならず「富岳」利用者全体へ提供している。2022年度はクラウド的な機能としてウェブインターフェイスを用いて「富岳」を操作可能なOpen OnDemandを評価し、試験的に「富岳」に導入した。

6-1-3 「富岳」におけるSaaSの実現

HPCを利用するためには、コマンドを使った操作やHPC特有のジョブ操作といった様々な前提知識を必要とするため、初心者には利用するまでの敷居が非常に高いという課題が従来からあった。これらを解決するために、コマンドでの操作でなくウェブ上のグラフィカルな操作でHPCを利用できるOpen OnDemandを評価した。Open OnDemandはHPCの利用を簡単にするためのSaaSプラットフォームであり、オープンソースで開発されている。

図2は「富岳」におけるOpen OnDemandのインターフェイスを示している。「富岳」の利用者はこの画面から利用したいアプリケーションを選択するだけで、「富岳」を利用できる。また、ファイルのアップロードやダウンロードもウェブブラウザを通して行える。

2022年度はOpen OnDemandを「富岳」で動作させるために、富士通製のジョブスケジューラに対応するアダプタを開発した。また、図2の左のリストに示すように多数のアプリケーションを「富岳」に整備し、ワンクリックでアプリケーションを「富岳」で利用できるようにした。今後はOpen OnDemandの「富岳」での正式サービス化及びクラウドやストレージとの連携機能の開発を通してより便利に「富岳」を利用できるようにする計画である。