RISTは、特定高速電子計算機施設(「富岳」)の優れた演算能力等を活用し、多様な分野の研究者が円滑に研究を行えるように、一元的に情報を提供する窓口機能を設置し、利用に係る相談(各種手続き、利用に関する相談)を受けるとともに、技術支援を行うため研究実施相談者等による支援体制を構築・運用している。なお、この研究実施相談者は、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律施行規則(平成18年文部科学省令第28号)の第8条に定められた特定高速電子計算機施設に係る数(14名)を確保している。このような技術支援体制により、「富岳」利用研究課題の申請を近い将来行う計画がある方、もしくはその課題に参加を予定している方を対象とした利用前技術支援や採択された課題に対して行うアプリケーションの調整・高度化の支援並びに利用者の利便性向上や成果の早期最大化、ユーザの裾野拡大等を目指したアプリケーション・ソフトウェア(以下「アプリソフト」という。)の利用環境整備を実施した。
その他の支援として、2020年度より、「富岳」の利用技術の習得等を目的として、R-CCSの協力を得て、利用者向け講習会を企画して開催した。また、HPC分野の利用者の裾野を拡大し、将来の「富岳」の利用者となる研究者・技術者の裾野を拡大するための活動として、「富岳」利用者かどうかを問わず、HPCIのユーザの方、HPCIを利用する予定がある、または利用を検討している方で、HPC (High Performance Computing) 向けプログラミング技法の習得を目指す方を対象としたチューニング技法及び並列プログラミングに関するセミナー並びにアプリソフト講習会やシミュレーション分野別ワークショップを継続的に開催している。
利用支援体制として、利用者からの全ての問い合わせを受け付けるワンストップサービス窓口としてのヘルプデスクを設置・運用し、利用者が「富岳」を利用した利用研究を行う際に直面すると思われるあらゆる問題に対処できる体制を整えている(図1)。
「富岳」共用開始に先立って、2020年4月1日から「富岳」共用前評価環境Ⅲ(*)の運用が開始され、2021年3月9日に共用が開始された。この環境を利用するあるいは利用を予定する利用者の支援のため、一元的窓口としてヘルプデスクを設置し、利用前相談、利用時相談・技術支援、情報提供を行った。相談者からヘルプデスクへの問い合わせについては、HPCIヘルプデスクシステムを活用し、問題点を的確に切り分け、効率的に実施する体制を整備した。これにより、利用者への情報提供、利用相談等を通じて、早期成果創出に貢献した。
(*)「富岳」共用前評価環境はシステム調整のため2019年度から運用され、2020年度は第3フェーズとして位置付けられた。
2020年度は、「富岳」共用前評価環境Ⅲの運用が開始され、4月から「富岳」成果創出加速プログラム課題の利用が始まった。また、10月以降の利用開始に向け「富岳」試行的利用課題(早期利用課題)、随時募集の「富岳」試行的利用課題(利用準備課題)の募集が開始され、更に共用開始に向け令和3年度(2021年度)A期課題の募集が開始された。課題採択前から、自らが抱える課題にどのようにHPC技術を適用すれば解決できるかを相談できるコンシェルジュ機能を有する窓口として、利用促進に貢献した。
「富岳」利用時の利用者支援の一元的窓口として、ヘルプデスクが対応し、相談内容によりさらに専門化した支援を受けられるようコンシェルジュとして機能した。例えば、プログラムの調整、高度化支援に関しては課題によっては利用支援部と連携・協力し、また産業利用者に対しては産業利用を総合的に支援する産業利用推進部と連携・協力して利用支援を行った。
技術相談として、以下のような項目に対して情報提供や問い合わせに対する調査や回答などを実施した。
また、利用者からのプログラム相談、利用相談、共用ストレージのデータ保存に関する相談などに対応した。
「富岳」を利用する利用者の一元的窓口として、トラブル相談への対応を実施した。
各課題に対する課題参加者の追加や削除、課題参加者の所属機関変更等の手続きについて支援した。
2020年度利用研究課題の終了時の手続き(利用報告書の提出、「富岳」や共用ストレージにおける計算データ保管等)について、利用者の相談に対応した。
「京」から「富岳」にシステムが更新され、ヘルプデスクにとってもはじめて対応するシステムとなった。利用相談、技術支援に対し、「京」のサービスレベルを維持するよう施設設置者であるR-CCSと、密接な連携・協力を行いながら実施した。
2020年度は、共用前の評価環境であることから、R-CCS主催で実施(1回/月)された。次年度からはRISTが主催するため、ノウハウの吸収に努めた。
2020年度は、共用前の評価環境であることから、「京」の時のような情報共有CMS による情報発信は実施していないが、共用開始後の情報発信に向け準備を進めた。
ヘルプデスクにおける月別の利用支援の状況を示す(図2)。
「富岳」試行的利用課題の利用が開始された10月以降問合せが増加し、年間の利用相談件数は、約2,100件であった。
2020年度に実施した高度化支援と2020年度から制度化した利用前技術支援を合わせて、「京」の共用を開始した2012年度下期以降、「富岳」の共用前評価環境から共用開始後約1ヶ月間を含む2021年3月末までの高度化支援等の総件数は190件となった。過去8年半に亘り、毎年一定数の支援を行っている(表1)。2020年度より、「富岳」の共用前評価環境の利用が始まったが、成果創出加速プログラム課題による利用が先ず開始されたこともあり、同プログラムからの支援依頼が多くを占めた。同年10月からは公募による「一般」や「産業」向けの試行的利用課題による利用が開始されたが、両分野からの支援依頼数は合計6件に留まった。
また、2020年度までの総数を利用枠ごとに見ると、「産業」からの支援依頼が突出していることが分かる。一方、採択課題数が多い「一般」(一般課題と若手課題が含まれる。)からの支援依頼は相対的に低い(図3)。今後、高度化支援等の積極的な利用を促すよう周知したい。
「京」 | ||||||
年度 | 戦略 | 重点 | 成果 | 一般 | 産業 | 合計 |
2012 | 7 | 3 | 2 | 12 | ||
2013 | 10 | 12 | 15 | 37 | ||
2014 | 7 | 3 | 18 | 28 | ||
2015 | 9 | 7 | 9 | 25 | ||
2016 | 5 | 6 | 10 | 21 | ||
2017 | 6 | 7 | 11 | 24 | ||
2018 | 15 | 2 | 5 | 22 | ||
2019 | 4 | 0 | 0 | 4 | ||
「富岳」 | ||||||
年度 | 戦略 | 重点 | 成果 | 一般 | 産業 | |
2020 | 11 | 2 | 4 | 17 | ||
小計 | 33 | 30 | 11 | 42 | 74 | 190 |
(戦略)HPCI戦略プログラム課題
(重点)ポスト「京」研究開発枠 重点課題/萌芽的課題
(成果)「富岳」成果創出加速プログラム課題
(一般)上記以外の課題で所属機関がアカデミア
(産業)上記以外の課題で所属機関が企業
「富岳」の高度化支援を始めるにあたっては、R-CCSが提供する各種資料を頼りに、2018年度に始まったポスト「京」性能評価環境利用課題の利用者への支援を始めとして、「富岳」共用前評価環境Ⅱにおいて行なっていた旧ポスト「京」重点課題とR-CCSによる高速化・性能評価への参画、あるいは「富岳」開発企業(富士通株式会社)と連携した利用者が多いアプリソフトの移植・性能評価等を通して支援スキルを磨いてきた。これらは、高度化支援等において非常に役立った。
なお、これから支援を依頼する方の参考とするため、高度化支援の支援事例を下記HPCIポータルサイトにおいて公開している。
https://www.hpci-office.jp/pages/support_pastまた、これまでに支援を通じて得られたノウハウから、技術的な内容を抽出した「高速化ノウハウ集」も下記HPCIポータルサイトに掲載している。
https://www.hpci-office.jp/pages/tuning_knowhow2017年度より、ユーザの利便性の大幅な向上、成果の早期最大化、ユーザの裾野拡大等を目的に、アプリソフト利用環境整備を行っている。対象とするカテゴリは、「利用者が多いまたは見込まれるアプリソフト」や「国で開発された重要なアプリソフト・新しい分野として利用が見込まれるアプリソフト」とし、整備内容としては、利用者がすぐに利用できる実行環境の整備と利用者がアプリソフトを容易にカスタマイズできるようするための情報の集約と発信を行っている。
整備対象となるアプリソフトを検討するにあたり、利用者のニーズ、有識者の意見、海外を含めた動向調査結果等を踏まえ、OpenFOAM、GROMACS、LAMMPS、Quantum ESPRESSOの4本のオープンソースソフトウェア(以下「OSS」という。)を「京」に整備した。2020年度には、「富岳」共用前評価環境Ⅲの利用者並びに「富岳」の共用開始に向けて、同じ4本のOSSの最新版を整備した。これらの整備は、「富岳」に新たに導入されたパッケージ管理ツール(Spack:Lawrence Livermore National Laboratoryで開発されているスパコン向けのソフトウェアパッケージ管理システム)を用いており、Spackのバージョンアップあるいは言語環境の更新に合わせて、OSSの利用環境の更新も行った。
ソフトウェア名 | Spackレシピ提供 | インストール手順書提供 |
---|---|---|
OpenFOAM(OpenCFD版) | v2006 | v1912, v2006 |
OpenFOAM(Foundation版) | 8.0 | 8.0 |
GROMACS | 2020.5, 2020.6, 2021, 2021.1 | -- |
LAMMPS | 29-Oct-2020 | 29-Oct-2020 |
Quantum ESPRESSO | 6.5, 6.6 | 6.5, 6.6 |
利用者支援の一環として、利用支援用スーパーコンピュータFX10(以下、「利用支援用スパコン」という。)の運用を、2013年11月より開始し、2020年度も継続して運用した。(図4)
利用支援用スパコンは、各種講習会での実習や産業利用課題を含むHPCI利用研究課題への高度化支援に活用されることで、産業利用の裾野拡大に向けた取り組みの推進に寄与している。その他、申請支援システム等のユーザ管理支援システムの運用を継続した。
利用支援用スパコンは各種講習会での実習や利用支援の他に、利用前相談におけるソフトウェアの動作確認や性能調査にも活用されていた。2020年度においては、「京」と同一のアーキテクチャが必要なくなったことから、利用支援や利用前相談への利用率は低下し、アウトリーチ活動を目的とした利用が主となった。
主にアウトリーチ活動に利用支援用スパコンを活用した。
「富岳」を中核とするHPCIシステムを使用するためのユーザ管理支援システムの維持管理及び運用を行っている。2020年度は主に「富岳」以外のHPCIシステム利用者向けにサービスを提供したが、同年後半より2021年度の「富岳」を中核とするHPCI利用研究課題の選定に向け、運用を行った。
2021年度課題募集(「富岳」を中核とするHPCIシステム)に向けた機能強化版(英語対応、操作性改善等)にて、課題申請の受付を実施した。申請支援システムは利用者が課題申請をする他、HPCI運用事務局やシステム構成機関等が使用する機能から構成されている。
課題参加者間の情報共有や課題利用者とHPCI運用事務局/システム構成機関との情報共有を支援するためのサービスを運用している。情報共有CMSでは情報共有スペースと呼ばれる単位に区別して管理している。情報共有CMSの仕組みを図5に示す。
ヘルプデスク受付に関わる実績管理のシステムであり、利用者からの問合せに対してメール及びWeb受付けをしている。Web受付では、問合せの受付に加え、対応状況を随時Webで確認することができ、ヘルプデスク業務の効率向上に繋がっている。
応募課題のピア・レビューを支援するためのシステムを運用しており、レビュアーからの操作性を中心とした改善要望に応えながら機能追加を行っている。2021年度課題のレビュー時に活用され、レビュー作業の効率化に繋がっている。