3 「富岳」の利用者選定

3-2 利用者選定

3-2-1 一般利用・産業利用の利用者選定

(1) 選定方法

「富岳」の利用者選定に当たっては、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(共用法)に基づき、登録機関として認可されたRISTが中立・公正な立場で選定を行う。

具体的には、RISTが公募する課題については、利用研究課題審査委員会(以下、課題審査委員会という)が指名する委員もしくはレビュアーにより課題の評価(レビュー)が行われ、その結果を取りまとめた課題選定・資源配分案を、課題審査委員会が審査する。その後、上位機関である選定委員会がその結果を確認し、最終的に登録機関であるRISTの理事長が選定課題の決定を行う。

2020年度においては、7月21日から共用開始前の利用として、「富岳」試行的利用課題(早期利用課題、利用準備課題)の公募を開始した。うち、早期利用課題は8月27日に申請を締め切り、課題審査委員会委員による専門分野の審査を実施し、課題審査委員会による審議および選定委員会の確認を経て、9月28日に課題を選定した。利用準備課題は10月1日から随時申請を受け付け、ソフトウェアの動作確認や性能評価等を目的とした規模の小さい課題であることから迅速な審査を重視し、予め課題審査委員会で承認された資格審査項目に基づき、逐次事務局で審査を行い、選定した。

共用開始後の利用については、令和3年度(2021年度)A期課題の募集を8月25日に開始した。11月5日に申請を締め切り、レビュアーによる評価結果に基づき、課題審査委員会による選定案の審査、審議および選定委員会の確認を経て、2月16日に課題を選定した。令和3年度(2021年度)B期課題については、3月11日に募集を開始しているが、申請受付以降の利用者選定に関わる業務は2021年度に実施した。なお、A期課題、B期課題の実施期間および配分資源量の考え方は図1の通りである。

図1 令和3年度(2021年度)利用研究課題の実施期間
図1 令和3年度(2021年度)利用研究課題の実施期間

共用開始後の随時募集課題については、共用開始となる3月9日から申請の受付を開始した。機動的課題については、基本的に5月末、8月末、11月末、2月末の年4回審査を実施することとしているが、2020年度においては、共用開始が前倒しされ早期の利用が可能となったため、2021年3月末に初回の審査を追加して対応した。選定方法は早期利用課題と同様である。また、試行課題については、逐次申請を受け付け、選定方法は利用準備課題と同様である。

(2) 選定結果

2020年度においては、共用開始前の利用に関する選定および共用開始後の利用に関する選定を実施した。

共用開始前の利用では、「富岳」試行的利用課題(早期利用課題、利用準備課題)の選定を実施した。その結果は表1に示す通りである。

表1 令和2年度(2020年度)「富岳」試行的利用課題の選定状況
課題種類 申請件数 選定件数 選定率
早期利用課題 36 30 83.3%
利用準備課題 92 92 100%

共用開始後の利用については、令和3年度(2021年度)A期課題の選定を実施した。その結果は表2に示す通りである。

表2 令和3年度(2021年度)利用研究課題の選定状況
(2021年度A期募集)
課題種類 申請件数 選定件数 選定率
一般課題 42(12)*1 38(9) *1 90.5%
若手課題 7 7 100.0%
産業課題 15 14 93.3%
利用促進課題 17 15 88.2%
合計 81 74 91.4%
HPCI共用計算資源(「富岳」以外) 86 *2 76 *3 88.4%

*1 「富岳」一般課題の括弧内は重点分野の件数を示す。

*2 「富岳」以外のHPCI共用計算資源の申請数は、「富岳」の採択結果に基づき、「富岳」以外のHPCI共用計算資源の審査対象(同時利用申請、第2希望)となった8件を含む。

*3 「富岳」と同時利用申請の結果、HPCI共用計算資源も採択された5件を含む。

令和3年度(2021年度)A期課題の選定では、課題からの要求資源量が提供可能資源量を下回った(図2参照)。しかしながら、課題審査委員会において、課題の質を一定まで確保するという方針により審議が実施され、採択率100%とはなっていない。「富岳」の一般課題に導入された重点分野(3-1-1参照)については、申請が12件あり、9件が重点分野として採択され、残りの2件も一般課題として採択された。

選定の結果、採択された課題の分野を見ると、一般課題では分野間のバランスが取れた分布となっている。産業課題においては、「工学・ものづくり」が優位となっている(図3, 図4参照)。また、採択された課題の参加者の所属機関別分布、配分資源量の所属機関別分布においては、「大学・研究機関」による利用が半分以上という結果となっている(図5, 図6参照)。

図2 提供可能資源量と要求資源量
図2 提供可能資源量と要求資源量
図3 分野別配分資源量比率(一般利用)[2021年度A期]
図3 分野別配分資源量比率(一般利用)[2021年度A期]
図4 分野別配分資源量比率(産業利用)[2021年度A期]
図4 分野別配分資源量比率(産業利用)[2021年度A期]
図5 課題参加者の所属機関別分布<br>[2021年度A期]
図5 課題参加者の所属機関別分布
[2021年度A期]
図6 配分資源量の所属機関別分布<br>[2021年度A期]
図6 配分資源量の所属機関別分布
[2021年度A期]

随時募集課題についても、共用開始後募集を開始し、2020年度分として選定された結果は、表3の通りである。

表3 令和2年度(2020年度)随時募集課題の選定状況
課題種類 申請件数 選定件数 選定率
一般機動的課題 0 0 -
一般試行課題 8 8 100%
若手機動的課題 0 0 -
産業機動的課題 0 0 -
産業試行課題 3 3 100%

3-2-2 成果創出加速の利用者選定

「富岳」成果創出加速プログラム課題の選定は、文部科学省がHPCI計画推進委員会のもとに設置した「富岳」成果創出加速プログラム課題レビュー委員会による審査、提案が行われ、結果が登録機関に通知された後に、課題審査委員会[2020年度実施分は課題審査委員会]により提案までのプロセスが審査され、登録機関により選定される。

2020年度においては、19件の課題が選定された(表4参照)。

表4 令和2年度(2020年度)成果創出加速プログラム課題一覧
課題名 実施機関(研究代表者)
領域① ⼈類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
全原⼦・粗視化分⼦動⼒学による細胞内分⼦動態の解明 理化学研究所⽣命機能科学研究センター(杉⽥有治)
⼤規模データ解析と⼈⼯知能技術によるがんの起源と多様性の解明 東京医科歯科大学 M&D データ科学センター(宮野悟)
核燃焼プラズマ閉じ込め物理の開拓 名古屋⼤学⼤学院理学研究科(渡邉智彦)
量⼦物質の創発と機能のための基礎科学
―「富岳」と最先端実験の密連携による⾰新的強相関電⼦科学
早稲⽥⼤学理⼯学術院総合研究所(今⽥正俊)
シミュレーションで探る基礎科学:素粒⼦の基本法則から元素の⽣成まで ⾼エネルギー加速器研究機構素粒⼦原⼦核研究所(橋本省⼆)
宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統⼀的描像の構築 神⼾⼤学理学研究科(牧野淳⼀郎)
脳結合データ解析と機能構造推定に基づくヒトスケール全脳シミュレーション ※ 電気通信⼤学⼤学院情報理⼯学研究科(⼭﨑匡)
領域② 国⺠の⽣命・財産を守る取組の強化
プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進 理化学研究所医科学イノベーションハブ推進プログラム(奥野恭史)
マルチスケール⼼臓シミュレータと⼤規模臨床データの⾰新的統合による⼼不全パンデミックの克服 株式会社UT-Heart研究所(久⽥俊明)
⼤規模数値シミュレーションによる地震発⽣から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装 海洋研究開発機構海域地震⽕⼭部⾨・地震津波予測研究開発センター(堀⾼峰)
防災・減災に資する新時代の⼤アンサンブル気象・⼤気環境予測 東京⼤学⼤気海洋研究所(佐藤正樹)
領域③ 産業競争⼒の強化
次世代⼆次電池・燃料電池開発によるET⾰命に向けた計算・データ材料科学研究 物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点(館⼭佳尚)
スーパーシミュレーションとAIを連携活⽤した実機クリーンエネルギーシステムのデジタルツインの構築と活⽤ 東京⼤学⼤学院⼯学系研究科(吉村忍)
省エネルギー次世代半導体デバイス開発のための量⼦論マルチシミュレーション 名古屋⼤学未来材料・システム研究所(押⼭淳)
⼤規模計算とデータ駆動⼿法による⾼性能永久磁⽯の開発 産業技術総合研究所材料・化学領域機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター(三宅隆)
環境適合型機能性化学品 ⼤阪⼤学⼤学院基礎⼯学研究科(松林伸幸)
「富岳」を利⽤した⾰新的流体性能予測技術の研究開発 東京⼤学⽣産技術研究所⾰新的シミュレーション研究センター(加藤千幸)
航空機フライト試験を代替する近未来型設計技術の先導的実証研究 東北⼤学⼤学院⼯学研究科(河合宗司)
領域④ 研究基盤
全脳⾎液循環シミュレーションデータ科学に基づく個別化医療⽀援技術の開発 ※ ⼤阪⼤学院基礎⼯学研究科(和⽥成⽣)

※計算資源のみ配分

3-2-3 委員会等開催概要

2020年度に開催した選定委員会、課題審査委員会、学際共同研究ワーキンググループは表5の通りである。また、「富岳」の利用制度設計等のため、RISTが2019年度に新たに設置したアドバイザリ委員会の開催状況は表6の通りである。

表5 2020年度委員会等開催一覧
種別 開催
年月日
開催地 主な議題等
選定委員会 第1回 2020年8月19日 オンライン 令和3年度利用研究課題の募集および選定の方針について
第2回 2021年2月5日 オンライン 令和3年度A期利用研究課題の採択および資源配分について
課題審査委員会 第1回 2020年9月15日 オンライン 令和3年度利用研究課題の審査要領について
第2回 2021年1月19日 オンライン 令和3年度A期利用研究課題の審査について
学際共同研究WG 第1回 2020年7月9日 オンライン 公募型共同研究HPCI-JHPCNシステム利用課題の募集要領について
第2回 2021年2月8日 オンライン 公募型共同研究HPCI-JHPCNシステム利用課題の審査について
表6 2020年度アドバイザリ委員会開催一覧
種別 開催
年月日
開催地 主な議題等
アドバイザリ委員会 第1回 2020年3月17日
(2019年度)
東京 ・本委員会における当面の諮問事項
・RISTへの提言等 まとめと対応方針
第2回 2020年4月14日 オンライン ・「富岳」における利用枠と課題種類
・令和2年度「富岳」試行的利用の募集方針
第3回 2020年5月12日 オンライン ・「富岳」における利用枠と課題種類
第4回 2020年6月1日 オンライン ・「富岳」資源配分案と課題種類
・アドバイザリ委員会報告書素案
第5回 2020年6月18日 オンライン ・重点分野について
・アドバイザリ委員会報告書(提言)
第6回 2020年12月17日 オンライン ・「スーパーコンピュータ「富岳」における利用制度について(提言)」への対応状況 等

3-2-4 募集活動

共用開始前の「富岳」試行的利用課題、また令和3年度(2021年度)A期募集、B期募集にあたり、募集説明会 、メディア向け説明会を表7の通り開催した。また、募集内容については、HPCIポータルサイトで公開を行うとともに、ポスター及びチラシを関係機関に配布している(図7参照)。

表7 募集説明会開催一覧
種別 対象 開催
年月日
開催地/
開催形式
備考
メディア向け説明会 「富岳」試行的利用課題募集 - 2020年7月22日 オンライン
募集説明会 「富岳」試行的利用課題募集 - 2020年8月6日 オンライン
2021年度A期募集 第1回 2020年9月24日 オンライン
第2回 2020年10月8日 オンライン
2021年度B期募集 第1回 2021年3月25日 オンライン
第2回 2021年4月8日 オンライン
図7 募集開始公告
図7 募集開始公告