RIKEN RIKEN

OSAKA, KANSAI, JAPAN EXPO2025 | ぜんぶのいのちと、ワクワクする未来へ。

シグネチャーパビリオン「いのちの未来」におけるR-CCSの取組み

人間の脳は、高度な知性とエネルギー効率の高さを兼ね備えた最も優れた情報処理システムであり、その情報処理機構の解明は、幅広い課題に柔軟に対応できる汎用人工知能開発の実現へとつながっていきます。
大阪・関西万博のシグネチャーパビリオン「いのちの未来」では、理化学研究所計算科学研究センター(R-CCS)と関連機関との連携による「脳」についての研究開発内容が、未来社会を生み出す最先端技術の1つとして、パネル展示で紹介されています。
ここでは、この展示に関連するR-CCSの研究をご紹介します。

1.「富岳」を駆使した860億神経細胞からなるヒト規模脳シミュレーション

大きな数の神経細胞をスーパーコンピュータでシミュレーションできるようになり、脳の理解の推進が期待されています。
​スーパーコンピュータ「富岳」による大脳皮質、小脳、大脳基底核等のシミュレーションや、脳モデル構築システムの開発が行われ、様々な動物脳のシミュレーションによる脳の理解へ向けた取り組みが行われています。​

ヒトスケール脳シミュレーション

ヒトスケール脳シミュレーション
・450億ニューロン・35兆シナプス(世界初人スケール)
・β波・γ波に相当する安静時脳活動を再現

大脳皮質・視床・小脳450億ニューロンの可視化
Igarashi et al., 2022, Neuroscience2022

「富岳」の性能を引き出すシミュレータ
MONETの開発
(Igarashi, Yamaura, Yamazaki 2019)​
  • ・タイルベース分割​
  • ・計算と通信の同時実行​
  • ・遠距離結合の非同期通信
  • ・キャッシュブロッキング
優れたスケーリング性能​

MONETは、優れたスケーリング性能(※下図)を持ち、従来不可能だったヒト脳規模でのシミュレーションを可能としました。

ヒトスケール脳シミュレーション 優れたスケーリング性能​

シミュレーションに必要な計算ノード数(横軸)を桁違いに増やしても、計算時間(縦軸)が増えずに一定に保たれます。これは、「富岳」のような大量の計算ノードを持つスパコン上でMONETを使うことで、大規模な脳のシミュレーションを可能としたことを示しています。

2. 大規模言語モデルとグラフニューラルネットワークによる大規模画像データ解析

高解像度の医療画像解析(脳を含む)において、高度化の取り組みが行われています。​
高解像度画像は詳細な情報を多く含むため、正確なセグメンテーションが求められますが、従来の方法は、画像を固定サイズのパッチに分割して処理するため、限界がありました。​
​R-CCSでは、スーパーコンピュータ上でトランスフォーマーモデルを活用する上での新たな手法を提案し、高速化を実現しています。将来的には、他の画像処理タスクや異なるドメインへの適用も期待されます。

大規模言語モデルとグラフニューラルネットワークによる大規模画像データ解析

3. デジタルツインによるヒト脳の情報処理機構の解明

最近、脳の中の結合や神経細胞の活動の計測技術が急速に発展し、脳のデータが爆発的に増えています。​我々は、哺乳類の脳のデータをもとに、「富岳」上でデジタルの脳をつくりだす取り組みを行っています。​データ同化という技術も駆使して、脳のシミュレーションをより正確に行うことで、脳の働きや神経疾患の理解を目指しています。​

「富岳」成果創出加速プログラム
包括的計測情報による多種全脳データ同化と特異的振動活動の探求

[サブ課題1]データ駆動脳モデル構築フレームワーク
[サブ課題2]全脳シミュレーションとの振動現象の探究

4.ヒト全脳シミュレーションとヒト全脳解析がもたらす汎用人工知能
~ヒト脳のデジタルコピーを創る未来~

幅広い課題に柔軟に対応できる汎用人工知能の開発に向けて、人間の脳という最も優れた情報処理システムの解析が進められています。「富岳」を活用し、人間の脳にある860億個もの神経細胞をコンピュータ上で再現しながら 、脳の動作メカニズムを解明する「ヒト全脳シミュレーション」。さらに、生成AIや画像解析技術を用いて、脳がどのように情報を理解・判断しているのかを探る「ヒト全脳解析」。この2つの技術によって、人間の脳のような“高度な知性とエネルギー効率の高さ”を兼ね備えた汎用人工知能の開発が可能となります。そして、それはデジタル空間上に脳のデジタルコピーを創る未来へ繋がっていきます。

「富岳」を駆使したヒト規模脳シミュレーション、大規模ヒト脳データ解析の概要図。電気通信大学 山崎 匡氏の協力のもと、高性能人工知能システム研究チーム(Mohamed WAHIB、五十嵐潤)にて監修

「脳を創れるのか」 (※1)

2030年にマウス全脳、2040年に人間以外の霊長類全脳のシミュレーションを実行し、脳の再現の可否を調べられるようになると予測されている。 ​

マウス全脳と人間以外の霊長類全脳のシミュレーションが成功するならば、計算機の性能があと1桁程度向上すればヒト全脳に達することができる。 ​

2022年以降の急激なAIの進歩は、ヒトの脳を創ることをさらに加速すると予測されている(※2)

  • ※1. 解説:大型計算機と脳計測の技術動向から予測する哺乳類全脳シミュレーションの将来
    https://doi.org/10.3902/jnns.28.172​
  • ※2. J. Igarashi, Future projections for mammalian whole-brain simulations based on technological trends in related fields,
    2024, Neuroscience Research​