「富岳」が2021年3月に一般共用を開始してからは、「富岳」を中核とするR-CCSの研究施設を安全、安定的に運転・維持することにより、施設全体の稼働率を上げ、共用施設である「富岳」を最大限に利用可能とし、電気設備、空調冷却設備などユーティリティ施設の運転、維持管理業務に努めている。設備の運転管理においては、「富岳」が24時間連続稼働であることから、常時ユーティリティ施設を適切に運転するため、24時間体制で施設管理を実施している。設備の性能を維持するため、計画的に保守点検を実施し、「富岳」を停止させることのないよう努めている。また、研究チームや他の研究機関等が持ち込むサーバー類についても、設置場所の整備、電源や空調の増設工事を行い、研究環境の維持整備を実施している。
R-CCSの電力は、電力会社からの受電と構内コージェネレーションシステム常用自家発電設備(以下CGSと呼ぶ)の発電により供給されている。電力会社からの受電電圧は77 kVで、契約電力は前年度の使用電力の実績を反映して調整している。都市ガス燃料による自家発電設備には、発電電圧6.6 kV、最大発電電力6,120 kWのCGSが2機設置されている。受電電力と発電電力を連携することにより、一次エネルギー消費量を最小化するとともに、万が一の停電時にも重要な設備に対して無停電で電力を継続的に供給することが可能である。
R-CCSの建屋竣工(2010年5月末)以降、職員の入居や「京」の稼働状況に合わせて契約電力を変更してきた。CGSは2011年1月末に竣工引き渡しを受け、「京」の本格的な試運転が開始された2011年3月より24時間連続運転を実施している。契約電力を過大としないため、その時々の電力並びに熱需要に合わせ、CGSの発電量を調整している。CGS 1機を常時運転し、もう1機を予備機として1~2週間ごとに切り替えて運用しており、2機のCGSの運転時間の均一化を進めている。
省エネ活動の推進により消費電力を削減するよう努めている。2022年度においては、コロナからの回復及びウクライナ問題等によりエネルギー価格が大幅に上昇し、「富岳」の運用において非常に困難な1年であった。光熱水費の予算額を大幅に上回る支出が予想されたことから、2022年度当初より「富岳」の省電力の取り組みが行われた。しかしながら、光熱水費が当初の予想を上回る上昇となり、通常の省電力化では十分な支出削減に繋がらなかったことから、7月後半から計算ノードの一部停止を実施し、大きく消費電力が削減された。計算ノードの一部停止は光熱水費の支出動向を鑑み11月前半に暫定解除されるとともに2022年度補正予算の成立をうけ2022年度末まで全計算ノードが稼働した。このことから2022年度の消費電力は2021年度比で約90%となった。2023年度においては、電力価格が下落したことから、全期間において全計算ノードを稼働させた一方で、継続した「富岳」の消費電力削減に取り組んだ結果、全期間において「富岳」の全計算ノードの運用を行った2021年度比で93%の消費電力となっている。(図1、2、3、4参照)
都市ガスは、ガス会社より中圧A(0.3MPa以上、1.0MPa未満)により供給されており、供給された都市ガスの大半をCGSが消費している。CGSから回収される排熱をすべて利用することにより、常時70%以上のエネルギー効率で運用している。月毎のガス使用量の推移を図5に示す。
電気と同様に、2022年度においては、コロナからの回復及びウクライナ問題等によりエネルギー価格が大幅に上昇し、同様に都市ガス価格が高騰したことから、計算ノードの一部停止期間(7月後半~11月前半)にかけて、CGS発電の抑制を実施した。結果として、電気と同様に2021年度比で約90%のガス消費量となっている。一方で2023年度に入り、電力価格が下落した一方で都市ガス価格は相対的に下落幅が小さく、エネルギーコストの最適化の観点から、CGSの発電量を抑制し都市ガス消費量の抑制を進めている。この結果2022年度比で99%、2021年度比で89%の都市ガス消費量となっている。(図5、6参照)
RCCSで使用する水は、神戸市水道局より工業用水並びに上水の2系統が供給されている。工業用水は主に「富岳」冷却時の排熱を大気中に放熱するための冷却塔補給水として利用されている。「富岳」の冷却のためには最大1,500t/日もの水を蒸発させる必要があるため、安価な工業用水を使用している。上水は研究棟飲用水、手洗いの他、冬季の加湿蒸気にも使用している。また、雨水並びに冷却塔ブロー水は貯留、滅菌した上で、トイレ洗浄水や構内植栽の灌水として再利用しているため、受水量に比べ下水道使用量は非常に少ない。2020年度から2022年度にかけてもコロナ禍が続くとともに、R-CCSとして積極的に在宅勤務を採用しているため、2023年度においても引き続き、上水道の使用量は更に低い値となっている。(図7、8、9、10、11、12参照)
R-CCSは2012年1月20日付けで、エネルギーの使用の合理化に関する法律における第一種エネルギー管理指定工場等に指定され、理化学研究所全体の省エネルギー管理のもと省エネ活動を推進している。「富岳」の共用を開始し全期間で運用を行った2021年度は今後の省エネルギー活動の基準となる原単位となっている。2022年度のエネルギー価格の高騰を受け、積極的な「富岳」の省電力機能の適用拡大と、冷却設備の効率的な運用に取り組んでいる。特にアイドル状態にある計算ノードの省電力化に取り組むとともに、「富岳」利用者に適切な電力モードで計算を行うよう積極的な活動が行われた。結果として、計算ノードの一部停止(2022年度7月後半~11月前半)の前後において10%程度の消費電力の削減が達成されている。このような消費電力の削減を取り組み続けた結果、「富岳」の2023年度の消費電力は2021年度比93%となっている。
「富岳」の運転計画に基づき、年間、月間、週間、日単位で施設運転計画を作成し、設備の運転保守を確実に実施した。設備の運転監視については、熱源機械棟中央監視室に常時2名以上の監視員を置き、24時間体制で実施している。また、日勤者平日7名、休日1名を配置し、構内設備類の巡回点検、薬液補充、フィルター清掃、水質管理等を計画的に実施することにより、安定した施設運用に努めている。
電気設備の定期点検は、電気事業法に基づくR-CCS自家用電気工作物保安規程に則り行うものであり、保安の確保により電気事故を防ぎ、電力の安定的な使用を確保している。また、電気主任技術者による従事者への安全教育を計画的に実施し、事故時の対応等の訓練を行っている。
2023年度では計画停電を連休期間となる2月10日から12日の3日間において実施し、「富岳」の電力変動に伴う膨大な熱負荷変動への点検整備を実施した。併せて、無停電電源設備を増設し、「富岳」関連設備の一層の安定運用に向けた設備増強を実施している。
CGSの点検は、電気事業法並びに保安規程及びボイラー安全規則に則り行うものであり、保安の確保並びに労働災害を防止し、発電設備並びに排熱回収ボイラーの安定運用を確保するものとしている。毎年6月にボイラー安全規則による排熱回収ボイラーの法定点検を中心に本体及び補機類の点検を実施している。点検にあたっては1機ずつ交互の点検とし、「富岳」の運転計画に影響を与えないように常時1機は運転した状態で点検を実施した。また、保安規程に定められたボイラータービン主任技術者による従事者への安全教育並びにボイラー安全規則に定められた安全教育を計画的に実施し、事故時の対応等の訓練も行っている。
CGSガスタービンの運転時間が32,000時間に達するとオーバーホール点検を実施する必要があるため、各号機の運転時間調整を行い2023年度においてガスタービンエンジン及び減速機のオーバーホールを実施するとともに、並行して各号機燃料系統遮断弁及び2号機蒸気制御弁交換作業も実施した。
2022年度のエネルギー価格の高騰をうけて、電力購入価格とガス購入価格に応じた発電と売電の最適化を2023年度においても進めるとともに、ガス由来の蒸気を使用する吸収式冷凍機の稼働台数を2台に抑制することで、CGS及び貫流ボイラーを合わせたガス使用量を2021年度比で約11%削減、2022年度比で約1%削減している。これによりエネルギー価格に応じたCGS常用自家発電の運転最適化手法を整備した。
冷凍空調設備については、日常巡回点検、始業前点検のより異常を発見した場合はその対処、修理を行い安定運用できるよう業務を行っている。特に「富岳」の冷却の要となる、蒸気吸収式冷凍機、ターボ冷凍機、スクリュー冷凍機の精密点検を定期的に実施しており、冷却水系統凝縮器、蒸発器のチューブ清掃並びに制御機器等精密点検を実施している。この他、これらの冷凍機の付随設備となる圧力容器、熱交プレート、給湯ストレージタンク、蒸気発生器、多感式貫流ボイラーの性能検査、及び整備を定期的に実施し、冷却設備の性能維持を図っている。これらの点検整備にあたっては、多重化された設備を活用することにより、「富岳」の運用に支障がないように実施している。
「富岳」のCPU冷却設備については、毎日水質チェックを行い、必要に応じてフィルター、デミナー、脱気膜の交換を行い、水質の維持に努めている。溶存酸素濃度計など純水維持装置のセンサー校正点検を実施し、維持管理が適正に行えるようにした。また、故障によってCPU冷却系が停止しないように、ポンプの点検整備を予防保守的に計画的に実施した。また、各空調機については、日常保守作業の計画の中で、フィルター清掃、グリスアップ、老朽部品の交換等を行い、健全性の維持に努めた。
2023年度は、冷却設備の老朽化対策として、吸収式冷凍機のチューブ劣化診断のための渦流探傷検査を実施するとともに、冷却塔CT-1~CT-4の機能回復整備作業として充填材の交換作業及び送風機系の整備作業を実施した。また、冷凍空調設備を監視する設備についても老朽化が進んでおり、これらの監視装置のリプレースについても実施している。
2022年度後半から、「富岳」のより一層の安定稼働と省エネルギー化を目的とし空冷モジュールチラーの増設準備を開始した。この増強工事は2023年度末に竣工し、2024年度から「富岳」のより一層の安定運転と省エネルギー化に貢献すると期待している。
施設全体の電力需要、熱需要に対し、一次エネルギー消費量が最小になるようにCGSの発電電力を調節し、省エネルギー並びに省CO2対策を実施している。CGSは低NOx運転を実施しており、神戸市条例による排出基準である60ppmを大きく下回る24ppm以下での運転を実施している。また、CGSからの排気ガスは2ヶ月に一度測定し、NOxや煤煙などの発生量が法令や神戸市条例を超えないよう管理している。また、雨水や冷却塔ブロー水については再利用により、水資源の有効活用をし、下水排出量を低減している。