「富岳」の利用においては、産業界が積極的に「富岳」を活用し、所期の成果を挙げて各社の研究開発が加速され、ひいては我が国の国際競争力が強化されることが強く期待されている。「富岳」の産業利用を効率的に推進するために産業利用推進部において、産業利用推進コーディネーター及び産業応用アプリケーションの主要分野に精通した支援員を配した体制を整備している。また、「富岳」の利用相談や支援を対面で受けたいとの関東の企業ニーズに対応するため、産業利用推進部の東京駐在を設置し、高度化支援や企業への普及促進活動を含む体制を整備している。2021年度も引き続き、この体制のもとで産業利用推進活動を実施した。
2021年度に産業利用相談・支援として実施した活動を下記6項目に分けて記載する。
課題申請前の時点から自社の課題にどのようにHPC技術を適用すれば解決できるかを相談できる、産業利用に関するコンシェルジュ的な相談業務を行っている。応募を検討している企業の多くが、「富岳」を使いこなせるのか、セキュリティは大丈夫か、などの不安を抱えており、相談の中でそれらが解消され、具体的な応募に至るよう努めた。神戸センターとアクセスポイント東京(産業利用相談・支援拠点)において、HPCIの利用相談として延べ33件に対応した。
2021年3月9日より本格的に「富岳」の共用が開始され、2021年度の企業等への利用前技術支援として1社、また高度化支援として、「富岳」産業試行課題5課題(5社)、「富岳」産業機動的課題1課題(1社)、「富岳」産業課題4課題(3社、1大学)を実施した。
支援対象のアプリケーション・ソフトウェアは、材料系では分子動力学のGROMACS, LAMMPS, 物性物理のQuantum ESPRESSO, DFTB+、機械学習ポテンシャルのn2p2、DeepMD-kit、FitSNAP(いずれもオープンソースソフトウェア)、流体系ではインハウスコードとオープンソースのDelft3D、気象系ではオープンソースのWRF、医療分野ではfMRI画像解析のオープンソースFreeSurferの11本であった。
これまでに実施した高度化支援の具体的な例は、HPCIポータルの利用支援のページに掲載している。
https://www.hpci-office.jp/pages/tuning_support
自社の業務に活用するために「富岳」を利用した研究・開発を実施または計画し、自社だけでは達成困難な、成果の創出やHPCを活用できる人材の育成を目標とする会社を対象として、研究・開発の全フェーズにわたる伴走的な支援を新たに開始した。
この伴走型利用支援は、支援依頼を随時募集し審査のための締切は年2回(8月末、2月末)で、最長6か月までの支援をするものであり、2021年度は1件の支援を実施した。
産業利用支援拠点であるアクセスポイント東京において、産業界における「富岳」を中核とするHPCIの利用を促進するため、技術的な利用相談や高並列計算の指導・助言、プリ・ポスト処理等の利用支援を実施した。
アクセスポイントは、パーティションを設置するなどの新型コロナウイルス感染症対策には万全を期したが、東京都に緊急事態宣言及びまん延防止等重点措置が発令されていた期間は運用を休止したこともあり、2021年度はアクセスポイントの作業用個室の利用は1件(15日間の利用)に留まった。一方、SINET5がSINET6へ移行するに伴い、アクセスポイントの回線工事を行い、SINET6においても10Gbpsの利用環境をスムーズに利用できるよう整備を行った。
一般的に、産業利用では評価が高く、自社の業務で使い慣れている有償ソフトウェアが使われることが多いが、「富岳」においては、オープンソースソフトウェア(OSS)や大規模シミュレーションの実績のある国家プロジェクトで開発・整備されてきたソフトウェアを利用する課題も多い。このような課題の利用相談で上位を占めるのは、ソフトウェアに関する内容であり、ソフトウェアの動作実績や入手方法、実行スクリプトの事例などである。
「富岳」ではOSS(表1)をパッケージ管理ツールSpackを用いて利用できるように整備しているが、2021年度は新たに火災シミュレーションソフトウェアであるFDSの整備を進めた。
GROMACS | 分子動力学計算 |
LAMMPS | 分子動力学計算 |
OpenFOAM | 流体解析 |
Quantum ESPRESSO | 第一原理計算 |
FDS | 火災シミュレーション |
また、HPCI利用研究課題への応募を検討されている方と利用者を対象に、HPCIポータルのソフトウェア検索ページに登録されている利用可能なソフトウェアの情報の更新を行った。
2021年度は産業利用の企業への普及・利用促進活動として、以下の活動を実施した。