2 「富岳」の運用

2-2 施設管理

2019年8月16日、「京」の約7年間におよぶ共用は終了し、同月30日にシステム電源がシャットダウンされた。直後に「京」の撤去作業が開始され、同年11月末までに「京」撤去・「富岳」搬入準備が完了した。2014年度から開発が進められていた「富岳」の製造は2019年4月から開始され、12月から筐体の搬入が開始、設置済の筐体に電源が順次投入された。2020年5月に搬入は完了し、合計432台の「富岳」筐体のすべてに電源が投入された。

「富岳」の消費電力は「京」の倍以上と想定されていたため、必要な電源設備と冷却システムの大規模増強工事を2019年度に実施した。2019年8月末までは「京」の運用を継続する中で工事を実施し、9月から11月の間で電源系統および冷却水配管系統の切替工事を実施した。12月から翌年3月にかけて「富岳」筐体の設置状況に合わせた試運転調整を実施し、その後ベンチマーク試験を実施した結果、2020年6月及び11月にスパコンランキング4部門において世界第一位を獲得し、2021年6月及び11月においても世界第一位を4期連続獲得した。

電気設備、空調冷却設備などユーティリティ施設の運転、維持管理業務の目的は、「富岳」を中核とするR-CCSの研究施設を安全、安定に運転・維持することにより、施設全体の稼働率を上げ、共用施設である「富岳」を最大限に利用可能とすることである。

設備の運転管理においては、「富岳」が24時間連続稼働であることから、常時ユーティリティ施設を適切に運転するため、24時間体制で施設管理を実施している。

設備の性能を維持するため、計画的に保守点検を実施し、「富岳」を停止させることのないよう努めている。また、研究チームや他の研究機関等が持ち込むサーバ類についても、設置場所の整備、電源や空調の増設工事を行い、研究環境の維持整備を実施している。

2-2-1 光熱水管理

1. 電気

R-CCSの電力は、電力会社からの受電と構内コージェネレーションシステム常用自家発電設備(以下CGSと呼ぶ)の発電により供給されている。電力会社からの受電電圧は77 kVで、契約電力は前年度の使用電力の実績を反映して調整している。都市ガス燃料による自家発電設備には、発電電圧6.6 kV、最大発電電力6,120 kWのCGSが2機設置されている。受電電力と発電電力を連携することにより、一次エネルギー消費量を最小化するとともに、万が一の停電時にも重要な設備に対して無停電で電力を継続的に供給することが可能である。

R-CCSの建屋竣工(2010年5月末)以降、職員の入居や「京」の稼働状況に合わせて契約電力を変更してきた。CGSは2011年1月末に竣工引き渡しを受け、「京」の本格的な試運転が開始された2011年3月より24時間連続運転を実施している。契約電力を過大としないため、その時々の電力並びに熱需要に合わせ、CGSの発電量を調整している。

2012年9月の「京」の共用開始以降、R-CCS全体の消費電力は徐々に増加してきたが、節電の努力の効果もあって「京」では平均15 MW程度で落ち着き、CGS 1機稼働が通常状態となっていた。2020年度から「富岳」全系での開発試験が実施されて最大消費電力は2倍以上と大幅に増えたが、2021年3月の共用開始以降、利用が活性化し「富岳」本体の平均消費電力は徐々に増えて19MWを超えてきている。2021年度ではCGS1機を定格出力で運転し、排熱蒸気を蒸気吸収式冷凍機で最大限活用することでエネルギー効率の最大化に貢献した。

CGS 1機を常時運転し、もう1機を予備機として1~2週間ごとに切り替えて運用しており、2機のCGSの運転時間を均一化してきた。ベンチマーク測定時や大規模ジョブ実行時には、大電力の需要が見込まれるため、状況に応じてCGS 2機を稼働させ、「富岳」の電力需要並びに熱需要に追従させるとともに、契約電力を超過しないよう運用している。

施設の最大電力は、省エネ活動の成果により徐々に減少する傾向が続いてきた。2019年8月末の「京」の運用終了以降の施設全体の消費電力が激減するタイミングでCGSを停止し、受電電力のみで施設全体の運用を実施した。12月に入り「富岳」本体の設置台数が増加して消費電力が2MWを超過した後にCGS1台の稼働を再開した。

2020年5月に入り「富岳」の筐体がすべて設置された直後に負荷試験を兼ねたベンチマーク試験が実施されたため、5月の受電電力量と発電電力量は共に高い値となった。「富岳」開発試験は順調に進み、2021年3月に共用を開始した。2021年度では「富岳」の利用の拡大と共に消費電力も増大している。(図1、2参照)。

図1 受電電力量の推移
図2 CGS発電電力量の推移
2. 都市ガス

都市ガスは、ガス会社より中圧A(0.3MPa以上、1.0MPa未満)により供給されており、供給された都市ガスの大半をCGSが消費している。CGSから回収される排熱をすべて利用することにより、常時70 %以上のエネルギー効率で運用している。月毎のガス使用量の推移を図3に示す。

2019年度は「京」の運用終了時点でCGS発電を停止したが、「富岳」本体を60台搬入した時点でCGS発電を再開した。2020年度は「富岳」の試験調整期間であったが、ベンチマーク試験を実施した5月には高負荷ジョブ実行を連続で実施したため、CGSを2台で稼働する機会が増えた結果として使用ガス量が最大となった。しかし、2020年8月からの一般競争入札で安価なガスが調達出来たことから、光熱費全体のコストを抑え込むことが出来た。2021年度ではCGS発電を最大限活用する運用を継続したため、使用ガス量も平均的に高く推移した。

図3 ガス使用量の推移
3.

R-CCSで使用する水は、神戸市水道局より工業用水並びに上水の2系統が供給されている。工業用水は主に「富岳」冷却時の排熱を大気中に放熱するための冷却塔補給水として利用されている。「富岳」の冷却のためには最大1,500t/日もの水を蒸発させる必要があるため、安価な工業用水を使用している。上水は研究棟飲用水、手洗いの他、冬季の加湿蒸気にも使用している。また、雨水並びに冷却塔ブロー水は貯留、滅菌した上で、トイレ洗浄水や構内植栽の灌水として再利用しているため、受水量に比べ下水道使用量は非常に少ない。上水道については、「富岳」搬入時にCPU冷却系統の純水を総入れ替えしたため、2019年10月から2020年3月まで例年以上の水量を使用している。しかし、2020年度に入り、コロナ禍による影響でリモートワークが増えた結果、施設利用者が激減したことで上水道の使用量は過去最低レベルとなった。2021年度もコロナ禍が続き、施設利用者が少ない状態が継続したため、上水道の使用量は更に低い値となった(図4、5、6 参照)。

図4 上水道使用量の推移
図5 下水道使用量の推移
図6 工業用水使用量の推移
4. 省エネルギー

R-CCSは2012年1月20日付けで、エネルギーの使用の合理化に関する法律における第一種エネルギー管理指定工場等に指定され、理化学研究所全体の省エネルギー管理のもと省エネ活動を推進している。2021年度は共用開始後、「富岳」の安定運用を最優先とした年度となったが、実績を評価し今後の省エネルギー活動の基準となる原単位を定めることが出来た。今後、「富岳」の省電力機能の適用拡大と、冷却設備の効率的な運用に取り組んでいく。

2-2-2 設備の運転監視、維持管理

1. 設備の運転保守

「富岳」の運転計画に基づき、年間、月間、週間、日単位で施設運転計画を作成し、設備の運転保守を確実に実施した。設備の運転監視については、熱源機械棟中央監視室に常時2名以上の監視員を置き、24時間体制で実施している。また、日勤者平日7名、休日1名を配置し、構内設備類の巡回点検、薬液補充、フィルター清掃、水質管理等を計画的に実施することにより、安定した施設運用に努めている。

2. 維持管理
(1)電気設備

電気設備の定期点検は、電気事業法に基づくR-CCS自家用電気工作物保安規程に則り行うものであり、保安の確保により電気事故を防ぎ、電力の安定的な使用を確保している。また、電気主任技術者による従事者への安全教育を計画的に実施し、事故時の対応等の訓練を行っている。

機器障害が全体運用に及ぼす影響を考慮し、構内停電を伴う電気設備点検を毎年実施するよう保安規定の改訂を行った。この規定に基づき、今後の重大事故の発生を未然に防ぐために計画的な保守整備を実施している。

2021年度では計画停電を2月の3連休に実施し、「富岳」の電力変動に伴う膨大な熱負荷変動への点検整備を実施した。

(2)CGS 常用自家発電設備

CGSの点検は、電気事業法並びに保安規程及びボイラー安全規則に則り行うものであり、保安の確保並びに労働災害を防止し、発電設備並びに排熱回収ボイラーの安定運用を確保するものとしている。毎年6月にボイラー安全規則による排熱回収ボイラーの法定点検を中心に本体及び補機類の点検を実施している。点検にあたっては1機ずつ交互の点検とし、「京」または「富岳」の運転計画に影響を与えないように常時1機は運転した状態で点検を実施した。また、保安規程に定められたボイラータービン主任技術者による従事者への安全教育並びにボイラー安全規則に定められた安全教育を計画的に実施し、事故時の対応等の訓練も行った。

CGSガスタービンの運転時間が32,000時間に達するとオーバーホール点検を実施する必要があるため、各号機の運転時間調整を行い「富岳」設置以前の2017年度に1号機、2018年度に2号機に対して実施した。2019年度は「京」を撤去して「富岳」を搬入するまでの間、CGSを停止し、共通設備系等の保守整備を実施した。2020年度から2021年度にかけては、CGS発電を常時最大運転とし、定格電力と11t/時以上の排熱蒸気を安定的に供給することで、「富岳」の効率的な運用に貢献した。

(3)冷凍空調設備

2014年度以降、熱源機械棟内にある蒸気吸収式冷凍機4台、ターボ冷凍機4台、スクリュー冷凍機1台の精密点検を定期的に実施しており、冷却水系統凝縮器、蒸発器のチューブ清掃並びに制御機器等精密点検を実施している。実施にあたっては、冷凍機を1台ずつ停止・点検することにより、「京」または「富岳」の冷却に支障がないように実施した。2019年度には、「富岳」向けの冷却設備増強として、空冷モジュールチラーを屋外熱源置場に整備し、2020年度から2021年度にかけて安定した運用と性能を維持するための保守点検作業を確立させた。

各空調機については、日常保守作業の計画の中で、フィルター清掃、グリスアップ、老朽部品の交換等を行い、健全性の維持に努めた。定期点検としては、中央監視装置主装置に加えて、ローカル機器の点検を実施した。いずれも「富岳」の冷却に支障のないように1台ないし数台ずつ停止して点検を行った。

CPU冷却設備については、毎日水質チェックを行い、必要に応じてフィルター、デミナー、脱気膜の交換を行い、水質を維持した。溶存酸素濃度計など純水維持装置のセンサー校正点検を実施し、維持管理が適正に行えるようにした。また、故障によってCPU冷却系が停止しないように、ポンプの点検整備を予防保守的に計画的に実施した。

「富岳」では「京」の倍以上のCPU冷却能力が必要となるため、2019年度に熱交換器及びポンプ系設備の大幅な増強工事を「京」の運用に影響を与えることなく実施した。2020年度から2021年度にかけては、「富岳」の急峻な熱負荷変動に対して問題なく対応できることを負荷試験および共有での運用を通して評価確認することが出来た。

2-2-3 環境保全への取組

施設全体の電力需要、熱需要に対し、一次エネルギー消費量が最小になるようにCGSの発電電力を調節し、省エネルギー並びに省CO2対策を実施している。CGSは低NOx運転を実施しており、神戸市条例による排出基準である60 ppmを大きく下回る24 ppm以下での運転を実施している。また、CGSからの排気ガスは2ヶ月に一度測定し、NOxや煤煙などの発生量が法令や神戸市条例を超えないよう管理している。また、雨水や冷却塔ブロー水については再利用により、水資源の有効活用をし、下水排出量を低減している。