4 「富岳」の利用支援

4-1 利用支援

RISTは、特定高速電子計算機施設(「富岳」)の優れた演算能力等を活用し、多様な分野の研究者が円滑に研究を行えるように、一元的に情報を提供する窓口機能を設置し、利用に係る相談(各種手続き、利用に関する相談)を受けるとともに、技術支援を行うため研究実施相談者等による支援体制を構築・運用している。なお、この研究実施相談者は、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律施行規則(平成18年文部科学省令第28号)の第8条に定められた特定高速電子計算機施設に係る数(14名)を確保している。このような技術支援体制により、「富岳」利用研究課題の申請を近い将来行う計画がある方、もしくはその課題に参加を予定している方を対象とした利用前技術支援や採択された課題に対して行うアプリケーションの調整・高度化の支援並びに利用者の利便性向上や成果の早期最大化、ユーザの裾野拡大等を目指したアプリケーション・ソフトウェア(以下「アプリソフト」という。)の利用環境整備を実施した。

その他の支援として、2020年度より、「富岳」の利用技術の習得等を目的として、R-CCSの協力を得て、利用者向け講習会を企画して開催した。また、HPC分野の利用者の裾野を拡大し、将来の「富岳」の利用者となる研究者・技術者の裾野を拡大するための活動として、「富岳」利用者かどうかを問わず、HPCIのユーザの方、HPCIを利用する予定がある、または利用を検討している方で、HPC (High Performance Computing) 向けプログラミング技法の習得を目指す方を対象としたチューニング技法及び並列プログラミングに関するセミナー並びにアプリソフト講習会やシミュレーション分野別ワークショップを継続的に開催している。

4-1-1 利用支援体制

利用支援体制として、利用者からの全ての問い合わせを受け付けるワンストップサービス窓口としてのヘルプデスクを設置・運用し、利用者が「富岳」を利用した利用研究を行う際に直面すると思われるあらゆる問題に対処できる体制を整えている(図1)。

図1 RISTにおける利用支援体制の概要

4-1-2 一元的利用支援窓口:ヘルプデスク

「富岳」は、2021年3月9日に共用が開始された。この環境を利用するあるいは利用を予定する利用者の支援のため、一元的窓口としてヘルプデスクを設置し、利用前相談、利用時相談・技術支援、情報提供を行った。相談者からヘルプデスクへの問い合わせについては、HPCIヘルプデスクシステムを活用し、問題点を的確に切り分け、効率的に実施する体制を整備した。これにより、利用者への情報提供、利用相談等を通じて、早期成果創出に貢献した。

1. 利用前相談

2021年3月9日の共用開始以降、令和3年度(2021年度)A期課題や「富岳」成果創出加速プログラム等、本格的に利用が開始された。また、「富岳」の随時募集課題や令和3年度(2021年度)B期課題の定期募集も実施され、自らが抱える課題にどのようにHPC技術を適用すれば解決できるかを相談できるコンシェルジュ機能を有する窓口として、利用促進に貢献した。

2. 利用時の相談

「富岳」利用時の利用者支援の一元的窓口として、ヘルプデスクが対応し、相談内容によりさらに専門化した支援を受けられるようコンシェルジュとして機能した。例えば、プログラムの調整、高度化支援に関しては課題によっては利用支援部と連携・協力し、また産業利用者に対しては産業利用を総合的に支援する産業利用推進部と連携・協力して利用支援を行った。

(1) ヘルプデスクによる技術相談

技術相談として、以下のような項目に対して情報提供や問い合わせに対する調査や回答などを実施した。

  • システム運用
  • ハードウェアやベーシックソフトウェア及びミドルウェア
  • プログラム言語
  • プログラム開発環境や実行環境
  • 利用者ポータル等「富岳」に装備されている各種ツール

また、利用者からのプログラム相談、利用相談、共用ストレージのデータ保存に関する相談などに対応した。

(2) 利用時のトラブル相談

「富岳」を利用する利用者の一元的窓口として、トラブル相談への対応を実施した。

  • 利用者プログラムとハードウェアやソフトウェアの各コンポーネント等のシステムとの問題の切り分け等
  • トラブルについての問題解決支援、あるいは代替策検討支援等
(3) 各種手続き相談

課題の申請や課題参加者の追加や削除、課題参加者の所属機関変更等の手続きについて支援した。

(4) 利用終了時の相談

2021年度利用研究課題の終了時の手続き(利用報告書の提出、「富岳」や共用ストレージにおける計算データ保管等)について、利用者の相談に対応した。

3. R-CCSとの連携・協力

「富岳」の共用開始に伴い、システムの特性を活かしたより高度な利用が行われている。一方、はじめてHPCIを利用する新規の利用者もあり、問い合わせは幅広い内容となっている。このような幅広い利用相談、技術支援に対し、運用機関であるR-CCSと密接に連携・協力しながら対応した。また、利用者へのサービス向上や更なる連携・協力に向けて、利用者からの問い合わせを管理する案件管理システムを統一すべく検討を開始した。

  • 利用者のディスク領域の拡大、複数の課題間のファイル共有等の各種システム設定変更要望への対応
  • 定期保守の実施やパラメータ設定等の変更、システム障害等「富岳」の運用情報の提供
  • データ退避に関する利用者への支援
4. 「富岳」ユーザブリーフィング

「富岳」利用者と R-CCS、RIST における運用と利用に関する情報提供、意見交換の場として、「富岳」ユーザブリーフィングを、2021年度はヘルプデスクが主催し、R-CCS協力のもと月1回開催している。また、できるだけ多くの利用者が出席できるようオンライン形式で実施し、当日参加できない利用者のため、資料だけでなく録画データの公開も開始した。

5. 情報提供

「富岳」の運用情報や利用上の注意点など、「ヘルプデスクからのお知らせ」メールや、ユーザブリーフィングの場で情報発信した。

6. 「富岳」利用相談対応実績

ヘルプデスクにおける月別の利用支援の状況を示す(図2)。

共用が開始され本格的に利用が開始されたこともあり、昨年度より問い合わせが約900件増加し、年間の利用相談件数は、約3,000件であった。特に3月は、2022年度からシングルアカウントの運用が開始されることもあり、その切替え申請のため各種手続きの件数が増加した。

図2 利用相談件数(期間2021年4月1日~2022年3月31日)

4-1-3 高度化支援、利用前技術支援

2020年度の「富岳」の共用前評価環境の開始から2021年3月9日の共用開始を経て、2021年度末までに実施した「富岳」に関する高度化支援および利用前技術支援(以下、「高度化支援等」という。)の件数は44件となった(2012年度から2019年度までの「京」に関する高度化支援件数の総数は173件)。

2021年度の「富岳」の支援件数は27件であり、「京」もしくは「富岳」不在の期間、いわゆる端境期、を含む2019年度および2020年度に比べて増加し、例年以上の件数に復帰している(表1)。比率については、前年度3月の共用開始より定期募集課題による利用が開始されたため、「一般」(一般課題と若手課題が含まれる。)と「産業」(産業課題が含まれる。)のカテゴリでの支援件数が、それぞれ12件、11件と増加している。一方、「成果」(成果創出加速プログラム課題)のカテゴリでの支援は4件に留まった。同課題は2020年度において共用前評価環境により「富岳」を先行利用しており、11件の支援を実施していたことによると考えられる。

また、実施した高度化支援等の比率について「京」の時代と比較すると(図3)、「富岳」が利用を開始してから約2年しか経過していないが、「富岳」においては、「産業」のカテゴリの比率が減少し、「国プロ」、「一般」、「産業」が同程度となっている。産業課題の採択課題が相対的に少ない(「一般」カテゴリの3分の1程度)ことを考慮すると、今なお、同カテゴリに対し手厚い支援を実施していると言える。引き続き、成果創出加速プログラム課題、一般課題、若手課題と共に、高度化支援等の積極的な利用を促していきたい。

表1  「富岳」における高度化支援等の件数の内訳
年度 成果 一般 産業 合計
2020 11 2 4 17
2021 4 12 11 27
合計 15 14 15 44

成果:「富岳」成果創出加速プログラム課題
一般*:一般課題および若手課題(主にアカデミアの方による課題)
産業*:産業課題(原則として企業の方による課題)
*) 利用前技術支援(2020年度より制度化)を含む。

図3 実施した高度化支援等の比率<br>(左:「京」(2012-2019年度)、右:「富岳」(2020-2021年度)<br>なお、「国プロ」は、「京」においては、HPCI戦略プログラム課題およびポスト「京」研究開発枠の重点課題/萌芽的課題、「富岳」においては、「富岳」成果創出加速プログラム課題を指す。
図3 実施した高度化支援等の比率
(左:「京」(2012-2019年度)、右:「富岳」(2020-2021年度)
なお、「国プロ」は、「京」においては、HPCI戦略プログラム課題およびポスト「京」研究開発枠の重点課題/萌芽的課題、「富岳」においては、「富岳」成果創出加速プログラム課題を指す。

なお、これから支援を依頼する方の参考とするため、高度化支援の支援事例を下記HPCIポータルサイトにおいて公開している。

https://www.hpci-office.jp/pages/support_past

また、これまでに支援を通じて得られたノウハウから、技術的な内容を抽出した「高速化ノウハウ集」も下記HPCIポータルサイトに掲載している。

https://www.hpci-office.jp/pages/tuning_knowhow

4-1-4 アプリソフト利用環境整備

2017年度より、ユーザの利便性の大幅な向上、成果の早期最大化、ユーザの裾野拡大等を目的に、アプリソフト利用環境整備を行っている。対象とするカテゴリは、「利用者が多いまたは見込まれるアプリソフト」や「国で開発された重要なアプリソフト・新しい分野として利用が見込まれるアプリソフト」とし、整備内容としては、利用者がすぐに利用できる実行環境の整備と利用者がアプリソフトを容易にカスタマイズできるようするための情報の集約と発信を行っている。

利用者のニーズ、有識者の意見等を踏まえ、2021年3月の「富岳」の共用開始に向けて整備したOpenFOAM、GROMACS、LAMMPS、Quantum ESPRESSOの4本のオープンソースソフトウェア(以下「OSS」という。)の最新版を2021年度に整備した。また、産業界からの要望に応え、新たに1本のOSS(FDS:火災解析アプリ)を整備した。これらの整備は、「富岳」に新たに導入されたパッケージ管理ツール(Spack:Lawrence Livermore National Laboratoryで開発されているスパコン向けのソフトウェアパッケージ管理システム)を用いており、Spackのバージョンアップあるいは言語環境の更新に合わせて、OSSの利用環境の更新も行った。

OSSの整備に加え、コミュニティーからの要望があり、成果創出加速プログラム等で開発された合計10本の国プロアプリ(国のプロジェクトで開発されたアプリソフト)を整備した。なお、理研あるいは開発者により、4本の国プロアプリが整備されている。「富岳」におけるアプリソフトの整備状況を表2に示す。

これら「富岳」において利用環境を整備したアプリソフトの情報は、2021年8月にHPCIポータルサイトで公開した。

表2 これまでに整備したアプリソフトとそのバージョン
ソフトウェア名 Spackレシピ提供 インストール手順書提供
OpenFOAM(OpenCFD版) v2012, v2106 v1912, v2006, v2012, v2106, v2112
OpenFOAM(Foundation版) 8 8, 9
GROMACS 2020.5, 2020.6, 2021, 2021.1, 2021.4 2020.6, 2021.2, 2021.3
LAMMPS 29-Oct-20 29-Oct-20, patch_5May20
Quantum ESPRESSO 6.5, 6.6, 6.7, 6.8 6.5, 6.6, 6.7
FDS 6.7.7 6.7.7
ABINIT-MP Open Ver.1 Rev.22, Open Ver.2 Rev.4 --
FrontISTR 5.0 --
GENESIS 1.5.1 --
3.5.0 --
MODYLAS 1.1.0b --
NTChem 2013 v12.2.0 --
OpenMX 3.9.9 --
PHASE/0 2021.01 --
SALMON 2.0.2 --
SMASH 3.0.0 --
mVMC 1.2.0 --
Phonopy 2.12.0 --
ALAMODE 1.3.0 --
AkaiKKR cpa2002v010 --

4-1-5 利用支援環境の整備・運用

利用者支援の一環として、利用支援用スーパーコンピュータFX10(以下、「利用支援用スパコン」という。)の運用を、2013年11月より開始し、2021年度も継続して運用した。(図4)

図4 利用支援用スーパーコンピュータシステムの概要
図4 利用支援用スーパーコンピュータシステムの概要

利用支援用スパコンは、各種講習会での実習や産業利用課題を含むHPCI利用研究課題への高度化支援に活用されることで、産業利用の裾野拡大に向けた取組の推進に寄与している。

その他、申請支援システム等のユーザ管理支援システムの運用を継続した。

※利用支援用スパコンは、機器の老朽化により2022年2月を以て運用を終了した。

1. 利用支援用スパコンの運用

利用支援用スパコンは各種講習会での実習や利用支援の他に、利用前相談におけるソフトウェアの動作確認や性能調査にも活用されていた。2021年度は運用を終了するまでアウトリーチ活動を目的として利用した。

2. ユーザ管理支援システムの運用

「富岳」を中核とするHPCIシステムを使用するためのユーザ管理支援システムの維持管理及び運用を行っている。2021年度より「富岳」が正式にHPCIの計算資源として利用可能になったことから、2021年度は「富岳」を中核とするHPCI利用研究課題の選定に向け、運用を行った。

(1)申請支援システム

2021年度B期課題募集(「富岳」)ならびに2022年度A期課題募集(「富岳」を中核とするHPCIシステム)に向けた機能強化版(操作性改善等)にて、課題申請の受付を実施した。申請支援システムは利用者が課題申請をする他、HPCI運用事務局やシステム構成機関等が使用する機能から構成されている。

(2)情報共有CMS

課題参加者間の情報共有や利用者とHPCI運用事務局/システム構成機関との情報共有を支援するためのサービスを運用している。情報共有CMSでは情報共有スペースと呼ばれる単位に区別して管理している。情報共有CMSの仕組みを図5に示す。

図5 情報共有CMSの仕組み
図5 情報共有CMSの仕組み
(3)ヘルプデスクシステム

ヘルプデスク受付に関わる実績管理のシステムであり、利用者からの 問い合わせに対してメール及びWeb受付をしている。Web受付では、問い合わせの受付に加え、対応状況を随時Webで確認することができ、ヘルプデスク業務の効率向上に繋がっている。

(4)ピア・レビューシステム

応募課題のピア・レビューを支援するためのシステムを運用しており、レビュアーからの操作性を中心とした改善要望に応えながら機能追加を行っている。2021年度及び2022年度課題のレビュー時に活用され、レビュー作業の効率化に繋がっている。