「富岳」の利用者選定に当たっては、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」(共用法)に基づき、登録機関として認可されたRISTが中立・公正な立場で選定を行う。
具体的には、RISTが公募する課題については、利用研究課題審査委員会(以下、課題審査委員会という。)が指名する委員もしくはレビュアーにより課題の評価(レビュー)が行われ、その結果を取りまとめた課題選定・資源配分案を、課題審査委員会が審査する。その後、上位機関である選定委員会がその結果を確認し、最終的に登録機関であるRISTの理事長が選定課題の決定を行う。
2023年度中に定期募集の審査・選定を2回実施した。2022年度末(3月9日)に募集を開始した令和5年度(2023年度)B期課題の申請を5月11日に締め切り、レビュアーによる評価結果に基づき、課題審査委員会による選定案の審査、審議及び選定委員会の確認を経て、8月17日に課題が選定された。令和6年度(2024年度)A期課題の募集は8月31日に開始し、10月31日に申請を締め切り、レビュアーによる評価結果に基づき、課題審査委員会による選定案の審査、審議及び選定委員会の確認を経て、翌年2月16日に課題が選定された。令和6年度(2024年度)B期課題については、3月7日に募集を開始したが、申請受付以降の利用者選定に関わる業務は2024年度に実施される。なお、A期課題、B期課題の実施期間及び配分資源量の考え方は図1の通りである。
随時募集課題については、「富岳」の共用開始日である2021年3月9日から継続して申請を受け付けている。
一般機動的課題(若手機動的課題を含む)と産業機動的課題については、5月末、8月末、11月末、2月末の年4回審査を実施することとしている。これら機動的課題は、レビュアーが採点を実施し、その結果に基づき課題審査委員会委員から選出した専門分野リーダーが審査する。その後、課題審査委員会による審議及び選定委員会の確認を経て、選定される。
一般試行課題と産業試行課題については、ファーストタッチオプション(*)を含め、逐次申請を受け付けている。これらは、ソフトウェアの動作確認や性能評価等を目的とした規模の小さい課題であることから、迅速な審査を重視し、予め課題審査委員会で承認された資格審査項目に基づいて逐次事務局で資格審査を行い、選定される。
(*)ファーストタッチオプション
「富岳」利用の裾野拡大を目的として2022年1月から新たに一般試行課題と産業試行課題に設定された。ファーストタッチオプションでは、申請書や利用報告書の記載を簡易な選択方式にするなど、幅広い利用を促進している。
2023年度の一般利用、産業利用の利用者選定結果を以下に示す。
令和5年度(2023年度)B期募集では、一般課題、若手課題、産業課題を対象として、応募数63件に対する審査の結果、34件を採択し、採択率は54.0%となった。令和3年度(2021年度)A期募集から導入された重点分野(3-1-1項参照)には、14件の申請があり、6件が重点分野として採択された。課題種類別の内訳は表1に示す通りである。
令和5年度(2023年度)B期募集の選定では、令和5年度(2023年度)A期募集と同様に、課題からの要求資源量が提供可能資源量を上回った(図2参照)。
令和6年度(2024年度)A期募集では、一般課題、若手課題、産業課題を対象として、応募数99件に対する審査の結果、83件を採択し、採択率は83.8%となった。重点分野には18件の申請があり、16件が重点分野として採択された。課題種類別の内訳は表1に示す通りである。
令和6年度(2024年度)A期募集の選定においても、課題からの要求資源量が提供可能資源量を上回った(図2参照)。
なお、令和5年度(2023年度)B期募集においては、令和4年度(2022年度)A期募集に引き続き、一般課題の要求資源量上限を1,000万ノード時間から2,000万ノード時間に拡大して募集したが、課題採択における競争激化に伴う措置として、令和6年度(2024年度)A期募集から同上限を1,500万ノード時間に縮小した。
「富岳」共用開始以降の定期募集における課題申請件数の推移については、図3に示す通りである。
選定の結果、採択された課題の分野別配分資源量の比率を図4、図5に示す。また、採択された課題の参加者の所属機関別分布、配分資源量の所属機関別分布を図6、図7に示す。
2023年度の随時募集課題の選定状況については、表2に示す通りである。随時募集の申請、選定件数は申請日(申請受領日)を基準として年度の集計としている。
なお、2022年度に開始した「富岳」国際連携課題(NSCC課題(**))は、年1回の定期的な募集であるが、「富岳」一般試行課題に準じた資源配分とするため、随時募集の項に選定状況を記載している。
(**)NSCC課題
「富岳」国際連携利用の一環としてシンガポールNSCCとRISTのMoUに基づき設定された課題。NSCCが募集し、NSCCが主催する審査委員会(日本側審査員も含む)で審査を行い、RISTが選定委員会の意見を踏まえて最終決定する。計算資源量は年間最大100万NHまで、課題ごとの要求資源量は最大40万NH、課題数は5件程度。
2023年度においては、予め想定される未割当資源の発生はなかった。
「富岳」成果創出加速プログラムの課題は、文部科学省がHPCI計画推進委員会のもとに設置した「富岳」課題推進ワーキンググループによる審査が行われ、結果が登録機関であるRISTに通知された後に、選定委員会により提案までのプロセスが審査され、登録機関により選定される。
2023年度においては、2021年度から継続する課題3件、及び2023年度に新たに採択された課題17件が選定された(表3参照)。
<令和3年度~7年度の実施課題(既存課題)> | ||
課題名 | 実施機関(研究代表者) | |
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領域③ 産業競争⼒の強化 | ||
データ駆動型高分子材料研究を変革するデータ基盤創出 | 統計数理研究所データ科学研究系(吉田亮) | |
「富岳」が拓くSociety 5.0時代のスマートデザイン | 神戸大学大学院システム情報学研究科(坪倉誠) | |
「富岳」を活用した革新的光エネルギー変換材料の実現 | 理化学研究所計算科学研究センター(中嶋隆人) | |
<令和5年度~7年度の実施課題(新規課題)> | ||
課題名 | 実施機関(研究代表者) | |
大規模連携課題 | ||
「富岳」で目指すシミュレーション・AI駆動型次世代医療・創薬 | 京都大学 医学研究科人間健康科学系専攻ビッグデータ医科学分野(奥野 恭史) | |
AIの活用によるHPCの産業応用の飛躍的な拡大と次世代計算基盤の構築 | 東京大学 生産技術研究所革新的シミュレーション研究センター(加藤 千幸) | |
物理-化学連携による持続的成長に向けた高機能・長寿命材料の探索・制御 | 物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点(館山 佳尚) | |
シミュレーションでせまる基礎科学:量子新時代へのアプローチ | 高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所理論センター(橋本 省二) | |
標準課題 | ||
「富岳」で実現するヒト脳循環デジタルツイン | 東京都立大学大学院 システムデザイン研究科(伊井 仁志) | |
生体分子シミュレータを基にした大規模推論システムの開発と応用 | 埼玉大学 情報メディア基盤センター(松永 康佑) | |
燃料電池触媒層の物質輸送機構解明に向けた、マルチスケール計算技術構築とその活用 | 関西大学 化学生命工学部(藤本 和士) | |
航空機デジタルフライトが拓く機体開発DXに向けた実証研究 | 東北大学大学院 工学研究科(河合 宗司) | |
シミュレーションとAIの融合で解明する宇宙の構造と進化 | 筑波大学 計算科学研究センター(大須賀 健) | |
超大規模格子QCDによる新物理探索と次世代計算に向けたAI技術開発 | 筑波大学 数理物質系(山崎 剛) | |
標準課題(計算資源のみ) | ||
「富岳」による地震の大規模シミュレーションの基礎拡充と社会実装へ向けた展開 | 東京大学 地震研究所計算地球科学研究センター(市村 強) | |
「富岳」が拓く次世代航空宇宙モビリティとその社会システムへの展開 | 東京大学大学院 工学系研究科航空宇宙工学専攻(伊藤 恵理) | |
計算材料科学が主導するデータ駆動型研究手法の開発とマテリアル革新 | 東北大学 金属材料研究所(久保 百司) | |
次世代宇宙論サーベイ群のための多波長宇宙論的シミュレーション | 東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(LIU Jia) | |
量子凝縮系のためのAI数値分光学で挑む量子縺れ構造の解明 | 物質・材料研究機構 エネルギー・環境材料研究拠点(山地 洋平) | |
包括的計測情報による多種全脳データ同化と特異的振動活動の探求 | 理化学研究所 計算科学研究センター(五十嵐 潤) | |
シミュレーションとAIで解き明かす太陽地球環境変動 | 名古屋大学 宇宙地球環境研究所(堀田 英之) |
「富岳」政策対応利用課題は、「3-2-2 成果創出加速の利用者選定」に示す「富岳」成果創出加速プログラムの課題と同じプロセスで選定される。
2023年度においては、年度当初に3件の課題が選定され、その後5月に新たに1件が選定された(表4参照)。
政策課題名 | 府省庁・局課室(研究代表者) |
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経済活動と感染拡大防止の両立の実現のための「飛沫シミュレーション」の実施 | 内閣感染症危機管理統括庁(尾形はづき) |
日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震に係る長周期地震動の検討 | 内閣府 政策統括官(防災担当)付参事官(調査・企画)(朝田将) |
豪雨防災、台風防災に資する数値予報モデル開発 | 気象庁 情報基盤部数値予報課(石田純一) |
「富岳」を活用した大規模言語モデル分散並列学習手法の開発 | 文部科学省 研究振興局参事官(情報担当)(嶋崎政一) |
「富岳」Society 5.0推進利用課題についても、「3-2-2 成果創出加速の利用者選定」に示す「富岳」成果創出加速プログラムの課題と同じプロセスで選定される。
2023年度においては、2022年度から継続する課題1件が改めて選定された(表5参照)。
課題名 | 実施機関(研究代表者) |
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「富岳」を機軸とした創薬DXプラットフォームの構築 | 一般社団法人 ライフ インテリジェンス コンソーシアム(奥野 恭史) |
「富岳」の持つ大規模並列ジョブ能力・大規模ジョブ実行能力を活用し、全系規模実行(全ノードの95%;152,064ノード)を希望する課題を、一般利用、産業利用、成果創出加速、Society 5.0推進利用、高度化・利用拡大の各実施中課題から募集するものであり、「富岳」全系規模実行課題審査委員会により審査を行う。選定された課題には、全系規模実行用の資源が追加配分される。主に「ACMゴードン・ベル賞」への応募を想定した募集であるが、利用目的はその限りではない。
2023年度は、2022年度分の「富岳」全系規模実行課題に採択された課題4件に対し、2023年度の「ACMゴードン・ベル賞」のファイナリストに選出された課題はなかったが、審査の結果、4件とも7月の全系規模実行(追加計算)が実施された(表6参照)。
また、2023年度分の「富岳」大規模実行(全系規模実行)の募集は11月に開始され、一般利用、高度化・利用拡大から2件の課題が選定された(表6参照)。選定された2件の課題により、2024年2月26日から28日に全系規模実行が実施された。
2023年度に開催した選定委員会、課題審査委員会、学際共同研究ワーキンググループは表7の通りである。「富岳」の利用制度設計等のため、RISTが2019年度に新たに設置したアドバイザリー委員会の2023年度の開催状況は表8の通りである。また、2021年度に新設した「富岳」全系規模実行課題審査委員会の開催状況は表9の通りである。
種別 | 回 | 開催年月日 | 開催地 | 主な議題等 |
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選定委員会 | 第8回 | 2023年8月9日 | オンライン | 令和5年度B期利用研究課題の採択および資源配分について |
第9回 | 2024年2月9日 | 東京および オンライン |
令和6年度A期利用研究課題の採択および資源配分について | |
課題審査委員会 | 第8回 | 2023年7月20日 | オンライン | 令和5年度B期利用研究課題の審査について |
第9回 | 2024年1月23日 | オンライン | 令和6年度A期利用研究課題の審査について | |
学際共同研究WG | 第1回 | 2023年7月26日 | オンライン | 公募型共同研究HPCI-JHPCNシステム利用課題の募集要領について |
第2回 | 2024年2月8日 | オンライン | 公募型共同研究HPCI-JHPCNシステム利用課題の審査について |
種別 | 回 | 開催年月日 | 開催地 | 主な議題等 |
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アドバイザリー 委員会 |
第9回 | 2023年5月15日 | オンライン |
・「富岳」におけるクラウド的利用の推進について ・「富岳」有償利用の促進について |
種別 | 回 | 開催年月日 | 開催地 | 主な議題等 |
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全系規模実行 課題審査委員会 |
第3回 | 2024年1月26日 | オンライン | 「富岳」大規模実行(全系規模実行)課題の審査について |
令和6年度(2024年度)A期募集、B期募集にあたり、募集説明会を表10の通り開催した。また、募集内容については、HPCIポータルサイトで公開するとともに、ポスター及びチラシを関係機関に配布している(図8参照)。
種別 | 対象 | 回 | 開催年月日 |
開催地/ 開催形式 |
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募集 説明会 |
2024年度A期募集 | 第1回 | 2023年9月13日 | オンライン |
第2回 | 2023年10月13日 | オンライン | ||
2024年度B期募集 | 第1回 | 2024年4月4日 | オンライン | |
第2回 | 2024年4月18日 | オンライン |