研究者に聞いてみよう! 第13回

連続系場の理論研究チーム
青木 保道 チームリーダー
研究者に聞いてみよう!
2022年03月掲載
青木 保道 チームリーダー
青木 保道 チームリーダー
Yasumichi Aoki
専門分野:素粒子論、格子ゲージ理論、大規模数値計算
札幌西高等学校の皆さん
私たちが取材しました!
北海道札幌西高等学校
化学部・物理研究部・有志の皆さん

理化学研究所計算科学研究センターの青木保道先生は素粒子論について研究されています。物質を極限まで分割すると素粒子にいきつきます。現在の宇宙はマイナス270℃だと言われていますが、宇宙の歴史を遡れば、もっと温度の高かった時期もありました。その時、素粒子はどうなっていたのでしょうか?水が100℃で沸騰して液体から気体へと状態を変えるように、素粒子もある温度を境に全く異なる振る舞い(相転移という)をするかもしれません。青木先生はその振る舞いを計算することで、宇宙の進化に迫ろうとしています。

QCD相図の中で解明された部分と解明されていない部分を教えてください。(辻)
青木

下の図で、頂点(点A)のところは素粒子の理論を調べることによって、真空の相転移があるということが確立されています。また、我々の世界を表す点(physical pt.=物理点)ではおおむね相転移がないと一般的には思われています。わかっているのはその2つの点だけです。

ここで「1st order」と書かれた右上と左下の領域が相転移があることを示す領域です。

下のmud軸の中程から左上の∞(無限大)を結ぶ赤い線は、相転移がある領域と無い(crossover)領域の境界線ですが、まだ確立していません。境界線が physical pt. に近づく可能性もあり、その場合我々の住む世界の描像に影響が出てくるかもしれません。そこで、真の意味でこの世界を知るためにはこの相図をちゃんと調べる必要があるんです。

QCD相図  
図:QCD相図
横軸はアップクオークとダウンクオーク、縦軸はストレンジクオークが持つ質量。一般に相図とは、ある条件下で物質がどのような状態をとるかを図にしたもの。
図:QCD相図
QCD相図の研究を進める上で最も印象的だったことはなんですか?(鈴木)
青木

素粒子クオークとグルオンのシミューレーションで計算できるある種の感受率(相転移の有無を調べる際に使われる物理量)を調べている際、もともと相転移がないと考えていた部分で、未知の相転移を示すかのようなデータを発見したことがありました。その時は、緻密な計算方法を用いたことにより発見できたのだろうかと胸が高まりました。しかし、研究を進めていくうちにやはり相転移はないという結論に至りました。残念ではありましたが、過去に自分が計算した結果を検証したということでもあるので、信頼性が向上したという点で良かったとも思っています。

QCD相図が完成することで、日常にどのような変化が起こる可能性がありますか?またどのようなことに利用できると思いますか?(京野)
青木

この実験において宇宙の成り立ちを考えることには面白さがありますが、現時点において私たちの日常には変化を与えないですね。しかしながら、ある研究者が実験結果を共有するために開発したシステムが現在の「ウェブサイト」の基本原理となっているように、今後100年後、200年後に実験成果やそのプロセスが何らかのテクノロジーの役に立っているかもしれません。

「富岳」により研究しやすくなった点、それによる成果は?(河合)
青木

相図上で相転移線がどこにあるか調べる研究を他のコンピュータで行っていたときは、相転移があることにより値が急激に変化しているのか、それとも連続的に変化して山のように見えているだけなのかよくわからない状況でした。ところが、「富岳」を用いることでデータが増え、確実に滑らかな山があることがわかりました。さらに計算を実行する空間の体積を広げた場合でも同じ形の山が確認され、これは相転移が無いことを示しています。「富岳」のパワーにより探索が一気に進んだことで、もしかしたら近いうちに、相転移が見つかるかもしれません。

学生時代のことを教えてください(佐藤)
青木

私は群馬県の高校の理数科に通っていました。そして友人の誘いで化学部に入りました。その時は遊び半分で、仲間たちといろんな実験をしていました。ブルーバックス(専門的な科学を説明している一般書)に出会い、科学の世界にひかれました。そして、高校2、3年生くらいから科学者になるための勉強を始めました。大学に入ると、科学者への道のりの険しさに直面しました。しかし、初心を忘れず勉学に励み、科学は面白いと思い続けていました。

研究をする上でのモットーなどがあれば教えていただけますか?(増田)
青木

モットーがあるとすれば、何か疑問を抱いたら基本に戻るということですね。人間は間違いを犯すものであり、結果に至るまでのどこかのステップで間違っている可能性が常にあるからです。失敗をしたときはもちろんですが、大発見をしたときこそそれを欠かさないようにしています。基本に立ち戻ることは、日々の研究生活の一環として行っています。

インタビューを終えて
実際に研究者の方にインタビューをするという、本当に貴重な経験ができました。青木先生からは研究内容以外にも、研究に対するモットーなども教えてもらうことができました。その中で、「何か疑問を抱いたら基本に戻る」という言葉があり、普段の生活でも大切にしたいと思います。最後に、今回の取材に携わってくださった方々に感謝いたします。お忙しい中、時間を割いていただきありがとうございました。
オンラインインタビューの様子
※今回のインタビューはオンラインで実施しました
PDF版はこちらからご覧いただけます。
研究者に聞いてみよう!
第13回
(PDF:40.3MB) pdf