研究者に聞いてみよう! 第12回

大規模並列数値計算技術研究チーム
今村 俊幸 チームリーダー
研究者に聞いてみよう!
2022年03月掲載
今村 俊幸 チームリーダー
今村 俊幸 チームリーダー
Toshiyuki Imamura
専門分野:並列数値アルゴリズム、高性能計算、数値線形代数
兵庫県立豊岡高等学校の皆さん
私たちが取材しました!
兵庫県立
豊岡高等学校の皆さん

―理化学研究所のスーパーコンピュータ「富岳」は近年、新型コロナウィルスの飛沫シミュレーションなどで活躍している世界的な計算機だ。今回、私たちは行列の固有値計算の研究者として、「富岳」の計算の高速化を実現された今村俊幸先生にお話を伺った。実際に研究を仕事にしている方は、どんな人でどんな風に研究をされているのか?また、計算機科学とはどんな研究フィールドなのだろうか?といった私たちの興味を念頭に、インタビューを行った。

多方面で利用される固有値計算

今村先生の所属されている理研の計算機科学研究センターには20ほどのチームがあり、研究室という単位で研究を進めているそうだ。研究室ごとにテーマが決まっており、各研究室間の連携や、企業、大学研究所、時には海外の研究所との共同研究も行うという。最近「富岳」で行われた飛沫のシミュレーションは、実はエンジンのガソリン噴出のシミュレーションをもとにしているそうだ。研究テーマは、研究者のこれまでの研究背景と共に社会のニーズも考慮して決めていると話してくれた。

今村先生は大学院生の頃から行列の固有値を計算するアルゴリズムを研究されており、かれこれ25年になるという。固有値の計算は、原子や有機化合物など、ミクロな物質の分子レベルの配置等の最適化や、ゲリラ豪雨のシミュレーション、さらにはインターネットのキーワード検索など様々な場面で利用されているらしい。

今村: あんまり数学の教科書に固有値計算の使われ方までは載っていないと思うんですけども、調べてみるといろんなところで使われています。

具体的な計算内容についても、非常に興味深いお話を聞くことができ、より身近に先生のアルゴリズムを感じられた。

先生は「社会的・科学的な課題を計算する際に、スーパーコンピュータ上で数学をうまく活用するためのアルゴリズムやソフトウェアを実現することが重要だ」と考え、研究を進められてきたそうだ。しかし、そこには計算機科学特有の難しさというものがあった。

今村: コンピュータというのは正しく計算しているようで実は実数を表現してないんですね。何桁目かで切り落とすような形で近似して計算をしているので…

この近似の影響で誤差が肥大化し、途中で計算が破綻してしまうということがあるのだそうだ。実際に固有値のアルゴリズム開発でも、「数学的には解けるがプログラムで実現することが難しい」という壁が立ちふさがったとおっしゃっていた。

先生はこのような壁にぶつかった際、他の研究者と議論したりして、全く違うアプローチを試みることもあるという。

今村: 他の研究者とかコミュニティとインタラクト(相互交流)することによって新しい分野を開拓していくというのは研究者の間ではよくあることだと思います。

研究所内の連携や、海外との共同研究のお話と合わせて、他分野、他の研究者との関わりの中で、学問領域が広がっていることを実感できた。そういった、人と関わる技術も研究者には求められるようだ。

今村: 特に研究分野が違うと専門用語などの使い方が全然違うんですね。同じ日本人ではあるんですけども研究分野が違えば文化も違うということで、やはり文化の違いをどうやって吸収するかということに一番力を使いますね。あとは人間対人間なので(笑) 人間関係をうまく構築するというところがまず大事かと思います。

このように、様々な分野が交わる領域で互いを理解し、意識のすり合わせをしていく作業は、抽象的な数学を具体的にかみ砕いて、プログラムで表現することにも繋がるのだという。ここには、様々な人、物と関わる中で新しいものを創造しようとする、今村先生の研究者としての誠実さがあった。

そんな今村先生に、研究者として大切にしていることを伺った。

今村: そうですね、研究者というものは知的好奇心を必ず常に持って、考えを深めていくのは非常に重要なんですけども、特に国立の研究所に勤めている研究者としては、重箱の隅をつつくような研究はせずに、我々の将来の生活をより良くするような、チャレンジングな仕事をやるということを大事にしています。その意味でも「富岳」のプロジェクトに関わって完成したっていうのは非常に私自身、誇りを持ってやれた仕事だと思っています。
今村: もう一つ研究者に必要なのは、自分が研究したことをきちっと文章にまとめる能力です。まとめる過程でこれまでとどう違い、どのように活かせるのかということを他の研究者に伝える力は非常に重要です。つまり研究はしたが発信をしない研究者というのは研究者ではありませんので、きちっと発信するところまでできる方が研究者と言えると思います。

先生の言葉には、研究を職業とする方としての確固たる信念が垣間見られ、それだけ説得力があった。私たちも学校での研究発表の際などに意識をして、「研究」というものに真摯に向き合いたいと思った。

先生は今、「量子計算機」と呼ばれる、新たな計算原理に基づいたコンピュータのアルゴリズムの研究をされている。これを用いれば、先ほど出てきた誤差を減らす新しい手法を取り込むなどして従来よりも圧倒的に速く計算が可能なプログラムが実現できるという。今後の研究の進展が楽しみだ。

研究者の方々の努力、信念が「プログラム」や「アルゴリズム」という見えない形で活躍し、私たちの生活を支えている。そのことを忘れず、研究者の方々に感謝して、日々を過ごしていきたい。

インタビューを終えて
今回このような機会を作っていただき、大変貴重な経験になった。普段は決して聞くことができない研究の裏側や、どのような場面でその研究が利用されているのかなど初めて聞くことが多く非常に興味深いものであった。研究者としての在り方、研究の極意など今後、私たちも活かしていきたいと思った。
最後に、インタビューを受けてくださった今村先生、本プログラムを企画いただいた計算機科学研究センターの皆様に感謝申し上げます。
オンラインインタビューの様子
※今回のインタビューはオンラインで実施しました
PDF版はこちらからご覧いただけます。
研究者に聞いてみよう!
第12回
(PDF:33.5MB) pdf