スーパーコンピュータ「富岳」の開発

「富岳」の開発
2019年11月掲載

R-CCSは、スーパーコンピュータ「京」の後継機である「富岳」(2019年5月に名称決定)の開発・整備を、主体となって進めています。 ここでは、「富岳」の開発の概要をご紹介します。

「富岳」の目的

「富岳」は、社会や科学分野のさまざまな課題を解決することと、Society 5.0(仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会)の実現に貢献することを大きな目的としています。

「富岳」の特徴

  • 幅広い用途に使える、世界最高レベルの計算機システムを実現します。
  • 国際協力により、世界最先端で、かつ、国際標準となるような技術を開発します。
  • 「京」で達成されたシミュレーション能力を受け継ぐとともに、ビッグデータや(AI 人工知能)への展開を目指します。

「富岳」の開発の進め方

上の目的を達成するため、幅広い分野に応用できるように、計算機システムとアプリケーションの協調的な設計(Co-design)によって開発を進めています。 多くのアプリケーションの中から選ばれた9つの「ターゲットアプリケーション」の特性に合わせてシステムを設計し、さらに、そのシステムに合わせてアプリケーションを最適化することで、アプリケーションの実効性能を最大で「京」の100倍にすることを目指しています。

計算機システム(計算の科学)とターゲットアプリケーション(計算による科学)によるコデザイン。それにより世界トップ性能と世界一の広がりを両立した。

「富岳」は、「京」と同じように、多数のCPUに計算を分担させるしくみの計算機です。CPUは、広く使われている既存のCPUを「富岳」のために大幅に改良して、高い演算性能と高い省電力性能をもたせたもので、ビッグデータやAIなどSociety 5.0に必要とされるアプリケーションで高い能力を発揮します。さらに、このCPU自体が世界標準として、クラウドやIoTにも使われる可能性を秘めています。 このCPU2個からなる単位をCMU、CMUを24個積み重ねたものをShelfと呼んでいます。Shelfを8個組み合わせて1個のラックが構成されます。

CPUと計算機ラックの構造
CPUと計算機ラックの構造。1つのCPUには48個の計算コアと、メモリ・通信用インターフェース。CPUが2個でCMU(2ノード)。CMUが24個でShelf(48ノード)。Shelfが8個で計算機ラック1台(384ノード)。
ターゲットアプリケーション

さまざまな計算を「富岳」で効率よく行えるようにするために、計算の目的や実行のしかたが異なる9つのアプリケーションが「ターゲットアプリケーション」に選ばれました。 これらが「富岳」で最大限働くようにするために、新しいアルゴリズムや実装方法の研究開発が進められています。

GENESIS タンパク質の動きを計算
Genomon ゲノム解析
GAMERA 地殻・都市の地震を計算
NICAM+LETKF 観測データを融合した地球大気のシミュレーション
NTChem 分子の構造を解明
ADVENTURE 大規模システムのシミュレーション
RSDFT 物質の特性を解明
FrontFlow/blue 乱れのある流れや音響を計算
LQCD 素粒子の振る舞いを計算
「富岳」での取り組み
AI、データサイエンス研究

「富岳」のCPUと通信ネットワークは、AI の基本をなす深層学習のための計算に適しているため、「富岳」は世界でもトップクラスのAIマシンとなる見込みで、AIやデータサイエンスの研究に活躍すると期待されています。

AI研究の未来
AIは、自動運転、自動翻訳、病気の診断など、ビッグデータと結びついて社会に広まると予想されるため、より高度な研究が求められる。
シミュレーションとAIの融合

AIを利用して実験や観測の結果とシミュレーション結果を融合させることで、より精度の高い予測を行うことができます。また、シミュレーション結果をデータとしてAIに「正解」を探してもらうこともできます。

社会シミュレーションとAI
個々人の行動や特性に基づいてシミュレーションを行い、避難時間や効率との関係性をAIで学習することにより適切な避難計画を提案。
シミュレーション

アプリケーションの実効性能が上がることから、より「高解像度」「長時間」「大規模」「多数のケース」のシミュレーションが可能となり、身近な社会的課題の解決から、基礎科学の理解まで、さまざまなインパクトが期待されます。

基礎科学の理解
1個の細胞中の全分子の動きを再現し、細胞のメカニズムの解明に貢献。
進む設備工事

「富岳」は「京」の施設や設備の一部を再利用して設置されますが、「京」に比べて消費電力が増加し、それに伴う排熱も増大する見込みのため、電気設備や冷却設備などを増強します。すでに、2019年5月から工事は始まっています。
※設備工事・設置レポートは、R-CCSのホームページやTwitterでご覧いただけます。

2019年6月、地下の免震ピットに運び込んだ冷却管をつなぎ合わせた。正確な位置決めのため、レーザーを使用。

2019年8月、計算機棟2階の高圧電気室に「富岳」用の変圧器を設置。

この記事は「計算科学の世界」NO.19
に収録されています。
計算科学の世界 VOL.19(PDF:4.01MB)pdf