研究者に聞いてみよう! 第10回

運用技術部門
庄司 文由 部門長
研究者に聞いてみよう!
2019年03月掲載
庄司 文由 部門長
庄司 文由 部門長
Fumiyoshi Shoji
山形県立鶴岡工業高校卒業後、山形大、金沢大院、七尾短大(講師)、広島大(助手)、理研(研究員、〔中略〕、部門長)とその場しのぎで過ごし、今に至る。趣味は車、サッカー観戦、猫観察。
兵庫県立三田祥雲館高等学校の皆さんと庄司部門長。「京」の前で。
私たちが取材しました!
兵庫県立
三田祥雲館高等学校の皆さん

「京」の守り人、語り部として

––庄司さんは「京」の開発プロジェクトに初期から携わっており、始まりから現在までずっと「京」のそばで働いてきました。現在は運用技術部門の部門長および利用環境技術ユニットのリーダーとして、ユーザーがより簡単に「京」を使えるように環境を整えるのが仕事です。「京」だけではなく周りの設備を管理する役割もあります。その努力によって「京」は高い稼働率を保っています。初代「京」、そしてポスト「京」と二代にわたりスパコン開発に携わる庄司さんにお話を伺いました。
(兵庫県立三田祥雲館高等学校 科学部有志)

施設の仕組みを教えてください。
「京」は世界トップクラスの計算性能を持っていますが、同時に大量の電力を消費します。消費された電力はすべて熱に変わります。なので、この施設の役割は、「京」が消費する大量の電力を安定して供給することと、「京」から出る膨大な熱を冷却することです。また、地震が起きた時にも耐えられるように、免震装置を設置しています。停電時には安全にデータを保存できるよう、電力会社から電力を直接供給するほかに、ガス会社から供給されたガスを使って発電する方法も使っています。
「京」を運用するうえで大変なことは何ですか?
「京」は巨大なシステムで、関連する電力設備、冷却設備も巨大で複雑なので、それらを安定的に運用することはもちろん大変なんですが、同時に、「京」を使う人に、いかに使いやすいサービスを提供できるかという点も重要です。その意味で、我々の仕事って実は接客業でもあると思っています。例えば、運転のスケジュールや障害情報など、「京」を使ううえで重要な情報、知らせるべき情報を適切な言葉で過不足なく伝える必要があります。うまくやらないと、言葉足らずで誤解を招いたり、知らせるタイミングが遅れて混乱を招いたりするので、実はとても大変で難しい仕事なんです。
「京」が終わろうとしている今のお気持ちは?
電源を切った後は泣くかもしれません(笑)。「京」の開発プロジェクトの最初から関わっているメンバーの中で、今でも「京」に関わっているのは私だけになってしまったので、語り部のような気持ちでもいます。「京」はまだまだ世界の中でも最高水準で、もっと長い間使ってほしいという気持ちもありますが、スパコンの世界では6~7年も経つと、故障が増えてきたり、交換部品が入手困難になったりして、実際のところ動かし続けることが難しくなります。人間で言えばかなりの「お年寄り」なので、このあたりで現役引退して次の世代に道を譲るのも仕方ないですね。残り少ないですが、電源を落とす時まで、しっかり動かして、しっかり使ってもらいたいと思います。
プログラミングを学ぶメリットは?
学ぶ上でいいなと思うことは、プログラムを書くと論理的思考が養われるということですね。頭の中のぼんやりしていたイメージ(論理の流れ)を明確化してくれる、ある種の道具のようなものです。それを実際に動かしてみると、うまくいったかどうか分かるんですよ。そういった意味で、プログラミングを学ぶと論理的思考が養われるのではないかと思います。論理的に考えられるということは、考えを前に進めてくれます。そのための道具として重要ではないかと思います。
大学卒業後に学んだことは?
私が以前、大学で働いていた時、本当は素粒子物理学をやりたかったんですけれど、なかなかそんな時間が取れませんでした。その時に「自分の理想を追い求めるか」、「与えられた仕事を頑張るか」という二択を迫られました。私はどちらかというと「与えられた仕事を頑張る」という方向になりました。私がいたのはコンピュータを使った教育システムの基本的な使い方をトレーニングするようなセンターだったんです。やりたかったことと全く違いましたが、やってみると結構面白かったんです。その中でも、視覚障害を持つ学生さんのために専用の点字のディスプレイなどがある環境を初めて作ったんですけれど、これもやってみると、使って喜んでくれる人がいました。こんな感じで、与えられた仕事であっても、それを頑張って突き詰めてみると、だんだん仕事が楽しくなってくるっていうことをいくつか経験しましたね。
やる気を出す方法は?
上司と呼ばれる立場として、どうしたら部下に頑張って仕事してもらうか、どうしたらポテンシャルを最大限引き出せるかというのは日々考えていますね。わくわくしながら仕事をしてほしいので、どうしたら彼らがわくわくしてくれるかを考えています。例えば、新しいテクノロジーを取り込んでどんな良いサービスができるか考えたりすることですかね。幸いにこの業界は次々新しい技術が出てくるので、本当に有用そうなもの、興味を持ってくれそうなものを選んで、「これやってみない?」と持ちかけます。そうやって、少しでもモチベーションが上がるように心がけています。もちろん、自分自身もわくわくしないとだめですね。
インタビューを終えて
普段、学校で過ごしているだけでは到底できないような特別な体験だったと思います。今まで、このような機会を持ったことは無かったので、とても難しくて理解するのがやっとというようなお話をされるのかと考えていましたが、そのようなことはほとんど無く、庄司さんはスライドも上手く使って分かりやすく説明してくださいました。また、ただ単に技術面についてお話をお聞きするだけでなく、人生の先輩としてのお話も伺うことができました。今回のお話を活かして日々の生活から頑張りたいです。このような機会を与えていただき、本当にありがとうございました。
インタビュー風景
この記事は「計算科学の世界」NO.18
に収録されています。
計算科学の世界 VOL.18(PDF:3.11MB)pdf