竹内薫の明日のコンサイ

第3回 量子コンピュータとスーパーコンピュータの関係

量子コンピュータと聞いてピンと来る人は少ないはずだ。そもそも、「量子」ってェ奴がかなりの食わせ物で、下手をすると理系でも「イマイチわからない」という人が多い。
量子の「量」は「エネルギーやスピンの量」であり、「子」は「最小単位」という意味だ(スピンは素粒子がもっている回転の性質)。つまり、量子とは、エネルギーやスピンといった物理量に最小単位がある、いいかえると「デジタルになっている」という意味なのだ。
おまけに、単にデジタルになっているだけでなく、量子は「粒子」であると同時に「波」でもあるという、変な性格をしている。さらに、量子の波は、われわれが棲んでいる3次元空間ではなく、無限次元のヒルベルト空間という抽象空間の住人だったりする!

あ、なんだか量子の説明に深入りしすぎましたね(汗)。
ええと、量子コンピュータとのかねあいでは、まず、量子の波が「重ね合わせできる」ということを押さえていただければよい。砂粒やビーズのような粒子は、1ヵ所に1粒しか存在できないから、重ね合わせはできない。一方、海や川の波は、1ヵ所に複数の波が存在できるから、重ね合わせができる。また、粒子は互いにすり抜けることができずにぶつかってしまうが、波はぶつからずに通り抜けることができる。ダンプカーがレンガ塀に突っ込んでいったら、たいていはぶつかって大破してしまうが、ダンプカーもレンガも、細かくみていくと量子からできているので、実は、ほんのちょっとだけ波の性質をもっている。だから、ダンプカーがレンガ塀をすり抜ける確率はゼロではない(これを「トンネル効果」と呼んでいる)。
こういった、量子が持っている重ね合わせやトンネル効果といった不思議な性質を駆使して計算するのが量子コンピュータなのである。

あのファンタジーでも、こんな場面を見たような・・

量子コンピュータには大きく分けて2種類ある。同時にいくつもの計算を重ね合わせてやってしまう量子ゲート(量子回路)型と、トンネル効果を使って最適化をする量子アニーリング(量子焼き鈍し)型だ。
このうち、量子アニーリング型の量子コンピュータの原理は、日本の西森秀稔と門脇正史が1998年に発見し、カナダのD-WAVE社が実用化し、GOOGLE社、NASA、ロッキード・マーチン社などが相次いで導入して話題になった。
実は、当初、量子アニーリング型が少数派だったこともあり、D-WAVE社の量子コンピュータはインチキだと思われていた時期もあった。しかし、世界のそうそうたる企業やNASAが導入したせいで、徐々にその信ぴょう性を疑う者はいなくなっていった。
量子ゲート型はまだ実用化されていないが、量子ゲート型と量子アニーリング型は、それぞれ、得意分野があるため、競合する方式ではない。たとえば、量子ゲート型は、巨大な素因数分解を瞬時に計算してしまう。いま現在、世界のインターネットセキュリティの多くは巨大な素数同士の掛け算が「鍵」なので、素因数分解できてしまうと、セキュリティが破れることになる。それこそ、どこかの独裁国家が世界に先駆けて量子ゲート型の量子コンピュータを開発してしまったら、インターネットは無法地帯と化し、独裁国家に支配されてしまうかもしれない。おお、怖(こわ)。

さて、量子アニーリング型の量子コンピュータはすでに実用化されており、今後、さらに計算容量も増すものと思われる。この型の量子コンピュータは、最適化問題を解くのに使うことができ、自動運転のためのカーナビ、薬の開発に必要な分子の構造解析、人工知能の機械学習のためのサンプリングなどに力を発揮すると考えられている。ネットを検索してみると、量子脳、量子ネット、量子人工知能といったワードが飛び交っていることに驚かされる。
現行のパソコンの1億倍という計算速度を誇る量子アニーリング型の量子コンピュータは、まさに未来を変えつつある。だが、既存のスーパーコンピュータが必要なくなるかといえば、そんなことはない。すでに触れたが、量子コンピュータは、特定の問題の計算をするときにだけ、現行のコンピュータより計算が速くなるからだ(ようするにスペシャリストという位置づけである)。

今から10年後、スーパーコンピュータ「京」は、パソコンの大きさになると予測される。誰もがマイ「京」を持ち歩く時代がやってくる。そして、量子コンピュータは、特化した問題を解くために、おもに専門家が使うようになるのだろう。
いずれにせよ、スーパーコンピュータ「京」や量子コンピュータの技術は、来たるべき人工知能・ロボット社会の舞台裏で、縁の下の力持ちとして活躍することになるはずだ。量子ゲート型の量子コンピュータがいつ実用化されるかも含めて、今後も、コンピュータの技術革新から目が離せませんね!