9 「富岳NEXT」プロジェクトの推進と先端的計算基盤技術開発

9-1 「富岳NEXT」プロジェクト

理化学研究所(理研)は、「次世代計算基盤に関する報告書 最終取りまとめ」(2024年6月文部科学省HPCI計画推進委員会。以下、「最終取りまとめ」という。)において、新たなフラッグシップシステムの開発主体とされており、スーパーコンピュータ「富岳」の次世代となる新たなフラッグシップシステムの開発・整備に関して、開発上のコードネームを「富岳NEXT」(英語名:FugakuNEXT)と名付け、2025年1月にプロジェクトを開始した。

我が国の科学技術・イノベーションが世界をリードし、社会や産業を発展させるためには、これまでのスーパーコンピュータで追求してきたシミュレーション性能だけではなく、シミュレーションとAIの両者において世界最高水準の性能を達成し、さらにシミュレーションとAIとが密に連携して処理を行いつつ、科学上の仮説生成や実証を含むサイエンスを自動化・高度化する「AI for Science」のための新たな計算基盤の実現が欠かすことができない。

「富岳NEXT」は、これらの状況を踏まえつつ、最終取りまとめおよび「次世代計算基盤に係る調査研究事業」の結果に加え、理研がこれまでスーパーコンピュータ「京」、「富岳」の開発・運用を通じて得られた経験と教訓を活かし、社会ニーズに応え、あらゆる分野における産学官の利用者に活用される次世代計算基盤の開発を目指す。また、理研において2023年度から推進している「最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)」をはじめとする研究開発事業として生み出した「AI for Science」や「量子HPC連携プラットフォーム」に関する成果や知見も活用していく。

2025年度からは、「富岳NEXT」システムの基本設計を進めることとし、理研とともに基本設計を行う民間企業(ベンダー)の公募・選定を進めていく。また、事業地については、「京」から「富岳」移行時のようなシステム入れ替えによる「端境期」を極力生じさせないという観点や、既存の「富岳」関連施設を活用するとともに施設の増強を行うことが合理的且つ経済的であることから、理研神戸地区(神戸市中央区港島南町)隣接地に整備することを決定した。

図1 理研としての次世代計算基盤の開発/整備方針

9-1-1 「富岳NEXT」のシステム構成

「富岳NEXT」のシステム構成については、今後の「AI for Science」の発展を見据えつつ、既存HPCアプリケーションで現行の5~10倍以上の実効計算性能、AI処理でゼッタ(Zetta)スケールのピーク性能を念頭に50EFLOPS以上の実行性能を実現するシステムの開発・整備を目指す。そして、シミュレーションとAIの融合により、総合的に5~10倍の実効計算性能向上を超える数十倍のアプリケーション実行高速化を達成することを目標とする。

「富岳NEXT」では、アプリケーションの実行性能を最優先として開発・整備を行う「アプリケーションファースト」を理念としつつ、電力制約下でも上記目標を達成するために、「富岳」で培ったアプリケーションソフトウェアなどの資産を有効活用できる電力効率の高いCPU部と、帯域重視の演算処理加速部を組み合わせた、高帯域及びヘテロジニアスなノードアーキテクチャを基本構成としたシステムを想定している。また、「富岳NEXT」の運用開始直後から科学的な成果を創出していくためには、既存アプリケーションコードを予め加速部へと移植し準備を進めていく必要がある。そのため、演算処理加速部には、ユーザーにとって扱いやすく、またベースとなる加速部アーキテクチャが現状で広く利用可能であることを重視して、システムの検討を進める。

図2 シミュレーションとAIの融合に向けた次世代計算基盤アーキテクチャ

9-1-2 推進体制

「富岳NEXT」の開発・整備や、次項の「9-2」で述べる、その先のフラッグシップシステムに向けた最先端の要素技術の開発・調査研究、さらにTRIPとの協業や、国際連携等を進めるためのハブ機能を果たす組織としてR-CCSに新たに「次世代計算基盤開発部門(部門長:近藤正章)」を2025年4月に設置することを決定した。「富岳NEXT」では、同部門がハブとなり、オープンで開かれた開発環境を構築するとともに、ユーザー・コミュニティとの対話を定期的に進め、プロジェクトを推進していく予定。

図3 次世代計算基盤開発部門の設置