RISTは、特定高速電子計算機施設(「富岳」)の優れた演算能力等を活用し、多様な分野の研究者が円滑に研究を行えるように、一元的に情報を提供する窓口機能を設置し、利用に係る相談(各種手続き、利用に関する相談)を受けている。さらに、技術支援を行うため研究実施相談者等による支援体制を構築・運用している。なお、この研究実施相談者は、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律施行規則(平成18年文部科学省令第28号)の第8条に定められた特定高速電子計算機施設に係る数(14名)を確保している。このような技術支援体制により、「富岳」利用研究課題の申請を近い将来行う計画がある方、又はその課題に参加を予定している方を対象とした利用前技術支援や採択された課題に対して行うアプリケーションの調整・高度化の支援並びに利用者の利便性向上や成果の早期最大化、ユーザーの裾野拡大等を目指したアプリケーション・ソフトウェア(以下「アプリソフト」という。)の利用環境整備を実施した。
利用支援体制として、利用者からの全ての問い合わせを受け付けるワンストップサービス窓口としてのヘルプデスクを設置・運用し、利用者が「富岳」を利用した利用研究を行う際に直面すると思われるあらゆる問題に対処できる体制を整えている(図1)。
「富岳」を利用するあるいは利用を予定する利用者の支援のため、一元的窓口としてヘルプデスクを設置し、利用前相談、利用時相談・技術支援、情報提供を行っている。2022年5月より、「富岳」を利用する上での技術的な問い合わせや利用開始後の各種申請を、今までのメール受付方式から、R-CCSが新しく開設した「富岳」サポートサイトを用いたWebブラウザによるチケット受付サービス方式へ切り替えた。更に2024年7月より、主に技術的な問い合わせへの対応として、生成AIを用いた生成AIアシスタント(AskDona)が導入され、自然言語による問い合わせで自己解決できる環境が提供された。AskDonaで解決できない場合や技術的な問い合わせ以外の相談については、従来のチケットで問い合わせることが可能である。
2024年度も利用研究課題の定期募集や随時募集が実施され、「富岳」利用開始前に自らが抱える問題にどのようにHPC技術を適用すれば解決できるかを相談できるコンシェルジュ機能を有する窓口として、利用促進に貢献した。
「富岳」利用時の利用者支援の一元的窓口として、ヘルプデスクが対応し、相談内容によりさらに専門化した支援を受けられるようコンシェルジュとして機能した。例えば、プログラムの調整、高度化支援に関しては課題によっては利用支援部と連携・協力し、また産業利用者に対しては産業利用を総合的に支援する産業利用推進部と連携・協力して利用支援を行った。
技術相談として、以下のような項目に対して情報提供や問い合わせに対する調査や回答などを実施した。
また、利用者からのプログラム相談、利用相談、共用ストレージのデータ保存に関する相談などに対応した。
「富岳」を利用する利用者の一元的窓口として、トラブル相談への対応を実施した。
課題の申請や課題参加者の追加や削除、課題参加者の所属機関変更等の手続きについて支援した。また、2025年2月より、「富岳」を利用する新規課題については、アカウント発行が富岳アカウント申請システム(FAAS)を使用した手続きとなり、それらの問い合わせにも対応した。
2024年度に終了する利用研究課題の終了時の手続き(利用報告書の提出、「富岳」や共用ストレージにおける計算データ保管等)について、利用者の相談に対応した。
共用開始以降、「富岳」においてはシステムの特性を活かしたより高度な利用が行われている。一方、初めて「富岳」を利用する新規の利用者もあり、問い合わせは幅広い内容となっている。このような幅広い利用相談、技術支援に対し、運用機関であるR-CCSと連携・協力しながら対応した。また、「富岳」サポートサイトにより、利用者の問い合わせに対し、より密接な連携・協力が可能となり、さらなる利用者へのサービス向上に努めている。
「富岳」利用者とR-CCS、RISTにおける運用と利用に関する情報提供、意見交換の場として、「富岳」ユーザーブリーフィングを、引き続きR-CCS協力のもと月1回開催している。また、できるだけ多くの利用者が出席できるようオンライン形式で実施し、当日参加できない利用者のために、資料だけでなく開催内容の録画データも公開している。
「富岳」の運用情報や利用上の注意点など、「ヘルプデスクからのお知らせ」メールや、ユーザーブリーフィングの場で情報発信した。
ヘルプデスクにおける月別の利用支援の状況を示す(図2)。
2024年度の利用相談件数は、2023年度から約300件減少して約3,100件であった。これは、主にAskDonaによる自己解決に伴う問い合わせの減少、また、手続き関連の問い合わせが減少したことによる。
2020年度の「富岳」の共用前評価環境の利用開始から2021年3月9日の共用開始を経て、2024年度末までに実施した「富岳」に関する高度化支援及び利用前技術支援(以下、「高度化支援等」という。)の件数は147件となった(2012年度から2019年度までの「京」に関する高度化支援件数の総数は173件)。
2024年度の「富岳」の支援件数は、企業の方を対象とした伴走型利用支援(詳細は、4-4-2を参照)を含め34件であり、2023年度に比べ7件減少しているが、引き続き依頼件数が多い状態が続いている(表1)。各カテゴリの件数は微減あるいは若干減であるが、支援の内容を分析すると、利用前技術支援の減少(2023年8件、2024年3件)が主な要因であることと考えられる。「富岳」の利用開始から約5年が経過し、ユーザーが「富岳」に精通しつつあるとも受け取れるが、さらなる新規ユーザーの獲得が現状の課題であるとも言える。
「富岳」において実施した高度化支援等の課題毎の比率についても、前述の通り、2024年度に各カテゴリで減少したものの、「一般(若手含む)」が6割強、次いで「産業」が4割弱を占め、傾向としては2023年度と大きな違いはない。「京」の時代と比較すると(図3)、利用を開始してから約5年が経過した「富岳」においては、「成果」の割合が減少し、「一般(若手含む)」と「産業」のカテゴリの比率の和が、8割を占める。「富岳」のユーザーが広く一般の分野に拡大したことによる支援件数の増加と考えられ、支援制度の拡充により、まだ利用者の裾野の広がりに余地があることを反映していると言える。
引き続き、成果創出加速プログラム課題、一般課題、若手課題と共に、産業界に対しても高度化支援等の積極的な利用を促していきたい。
2023年度から開始した「富岳」全系規模実行に対する高度化支援は、2024年度は合計5課題の全系規模実行に対する高度化支援を実施し、全系の1/2規模での実行などの大規模実行への着実なスケールアップ、走行ログの分析、走行計画の策定、大規模並列計算に特有な問題への対処等を実施。目標とした全ての実行が完走するなど、全系規模実行実施者の走行計画や目標の達成に貢献した。全系規模実行の実施においては、RISTの高度化支援担当が常時全系規模実行実施者と連絡を取り、問題発生時の対処や運用側であるR-CCSとスムーズに連携できるよう、当該高度化支援担当が24時間体制で各種の支援を実施している。
| 年度 | 成果 | 一般 | 産業 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | 11 | 2 | 4 | 17 |
| 2021 | 4 | 12 | 12 | 28 |
| 2022 | 3 | 14 | 10 | 27 |
| 2023 | 4 | 22 | 15 | 41 |
| 2024 | 2 | 21 | 11 | 34 |
| 合計 | 24 | 71 | 52 | 147 |
成果:「富岳」成果創出加速プログラム課題
一般*:一般課題及び若手課題(主にアカデミアの方による課題)
産業*:産業課題(原則として企業の方による課題)
*) 利用前技術支援(2020年度より制度化)及び伴走型利用支援(2021年度より制度化)を含む。
なお、これから支援を依頼する方の参考とするため、高度化支援の支援対象課題一覧、及び支援事例を下記HPCIポータルサイトにおいて公開している。
また、これまでに支援を通じて得られたノウハウから、技術的な内容を抽出した「高速化ノウハウ集」も下記HPCIポータルサイトに掲載しているので、活用していただきたい。
2017年度より、ユーザーの利便性の大幅な向上、成果の早期最大化、ユーザーの裾野拡大等を目的に、アプリソフト利用環境整備を行っている。対象とするアプリソフトは、「利用者が多い又は見込まれるアプリソフト」や「国で開発された重要なアプリソフト・新しい分野として利用が見込まれるアプリソフト」とし、整備内容としては、利用者がすぐに利用できる実行環境の整備と利用者がアプリソフトを容易にカスタマイズできるようにするための情報の集約と発信を行っている。
利用者のニーズ、有識者の意見等を踏まえ、2021年3月の「富岳」の共用開始に向けて整備したOpenFOAM、GROMACS、LAMMPS、Quantum ESPRESSO及び産業界からの要望に応えて2021年度に新たに追加したFDS(火災解析アプリ)の5本のオープンソースソフトウェア(以下、「OSS」という。)の内、FDSを除く最新版を2024年度に整備した。これらの整備は、「富岳」に新たに導入されたパッケージ管理ツール(Spack:Lawrence Livermore National Laboratoryで開発されているスパコン向けのソフトウェアパッケージ管理システム)を用いて行われており、Spackのバージョンアップあるいは言語環境の更新に合わせて、OSSの利用環境の更新も行った。なお、RISTが整備した4本のOSSは、「富岳」で利用されているアプリケーションの中で常に上位を占めている。
OSSの整備に加え、コミュニティーからの要望があり、成果創出加速プログラム等で開発された合計9本の国プロアプリ(国のプロジェクトで開発されたアプリソフト)を整備した。なお、理研あるいは開発者により、3本の国プロアプリが整備されている。「富岳」におけるアプリソフトの整備状況を表2に示す。
これら「富岳」において利用環境を整備したアプリソフトの情報は、2024年6月にHPCIポータルサイトで公開した。
また、「富岳」後継機(ポスト「富岳」)でアクセラレータ搭載システムの採用が見込まれる状況であり、ポスト「富岳」を見据え、HPCIシステム構成機関がHPCI共用計算機資源として提供しているGPU搭載機を利用して、「富岳」において整備・利用されているOSSのGPU化対応に関する調査・検討を開始した。
| ソフトウェア名 | Spack提供 | インストール手順書提供 |
|---|---|---|
| OpenFOAM(OpenCFD版) | v2012, v2106, v2112, v2206, v2212, v2306, v2312 | v1912, v2006, v2012, v2106, v2112, v2206, v2212, v2306, v2312 |
| OpenFOAM(Foundation版) | 8, 9, 10, 11 | 8, 9, 10, 11 |
| GROMACS | 2020.6, 2021.5, 2022.4, 2023.1, 2023.2, 2023.4, 2024, 2024.1 | 2019.6, 2020.6, 2020.7, 2021.2, 2021.3, 2022.3 |
| LAMMPS | 20201029, 20220623.2, 20230802.3 | 29-Oct-20, patch_5May20, 23Jun22 |
| Quantum ESPRESSO | 6.5, 6.6, 6.7, 6.8, 7.0,7.1, 7.2, 7.3 | 6.5, 6.6, 6.7, 7.0, 7.2 |
| FDS | 6.7.7, 6.7.9, 6.8.0 | 6.7.7 |
| ABINIT-MP | 1-22, 2-4, 2-8 | -- |
| FrontFlow/blue | 9.0 | -- |
| FrontISTR | 5.4, 5.5 | -- |
| GENESIS | 1.6.0, 2.0.3, 2.1.1, 2.1.2 | -- |
| HΦ | 3.5.0, 3.5.1 | -- |
| MODYLAS | 1.1.0b | -- |
| NTChem | 13.0.0, 24.04 | -- |
| OpenMX | 3.9, 3.9.9 | -- |
| PHASE/0 | 2021.01, 2021.02, 2023.01 | -- |
| SALMON | 2.0.2, 2.1.0, 2.2.0 | -- |
| SMASH | 3.0.0, 3.0.2 | -- |
| mVMC | 1.2.0 | -- |
| Phonopy | 2.12.0, 2.20.0 | -- |
| ALAMODE | 1.3.0, 1.4.2, 1.5.0 | -- |
| AkaiKKR | 2002v010, 2021v001, 2021v002 | -- |
| FFX | 59.01, 03.01 | -- |
| FFVHC-ACE | 1.0.0, 0.1 | -- |
利用者支援の一環として、2012年6月より「ユーザー管理支援システム」及びピア・レビューシステムを運用しており、2024年度も運用を継続した。
同システムは(1)「富岳」を中核とするHPCIシステムを使用するための利用登録や課題申請(申請支援システム)、(2)利用者間並びに各システム構成機関からの情報共有(情報共有CMS)、(3)利用者からの問い合わせ受付及び管理(ヘルプデスクシステム)を行うための各サブシステムで構成されており、これらに加え(4)応募された課題の採点業務を効率化するためのシステム(ピア・レビューシステム)と合わせて維持管理及び運用を行っている。各システムの詳細と役割は以下の通り。
2024年度B期課題募集(「富岳」)並びに2025年度A期課題募集(「富岳」を中核とするHPCIシステム)に向けた機能強化版(操作性改善等)にて、課題申請の受付を実施した。申請支援システムは利用者が課題申請をする他、HPCI運用事務局やシステム構成機関等が使用する機能から構成されている。
課題参加者間の情報共有や課題利用者とHPCI運用事務局/システム構成機関との情報共有を支援するためのサービスを運用している。情報共有CMSでは情報共有スペースと呼ばれる単位に区別して管理している。情報共有CMSの仕組みを図4に示す。
ヘルプデスク受付に関わる実績管理のシステムであり、「富岳」利用者からの主に事務手続きに関する問い合わせに対してメール及びWeb受付を行っている。Web受付では、問い合わせの受付に加え、対応状況を随時Webで確認することができ、ヘルプデスク業務の効率向上に繋がっている。
なお、「富岳」利用者からの技術的な問い合わせへの対応は、理研で整備し、2022年度に本格運用を開始したチケットシステム(ZenDesk)を用いる運用に切り替え、理研とのタイムリーな情報共有によるユーザーニーズの把握に貢献している。
応募課題のピア・レビューを支援するためのシステムを運用しており、レビュアーからの操作性を中心とした改善要望に応えながら機能追加を行っている。2024年度及び2025年度課題のレビュー時に活用され、レビュー作業の効率化に繋がっている。