3 「富岳」の利用者選定

3-2 利用者選定

3-2-1 一般利用・産業利用の利用者選定

1. 選定方法

「富岳」の利用者選定に当たっては、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」（共用法）に基づき、登録機関として認可されたRISTが中立・公正な立場で選定を行う。

具体的には、RISTが公募する課題については、利用研究課題審査委員会（以下、課題審査委員会という。）が指名する委員もしくはレビュアーにより課題の評価（レビュー）が行われ、その結果を取りまとめた課題選定・資源配分案を、課題審査委員会が審査する。その後、上位機関である選定委員会がその結果を確認し、最終的に登録機関であるRISTの理事長が選定課題の決定を行う。

2022年度中に定期募集の審査・選定を2回実施した。2021年度末（3月10日）に募集を開始した令和4年度（2022年度）B期課題の申請を5月12日に締め切り、レビュアーによる評価結果に基づき、課題審査委員会による選定案の審査、審議及び選定委員会の確認を経て、8月19日に課題が選定された。令和5年度（2023年度）A期課題の募集は9月1日に開始し、11月2日に申請を締め切り、レビュアーによる評価結果に基づき、課題審査委員会による選定案の審査、審議及び選定委員会の確認を経て、翌年2月16日に課題が選定された。令和5年度（2023年度）B期課題については、3月9日に募集を開始したが、申請受付以降の利用者選定に関わる業務は2023年度に実施される。なお、A期課題、B期課題の実施期間及び配分資源量の考え方は図1の通りである。

随時募集課題については、「富岳」の共用開始日である2021年3月9日から申請の受付を継続している。

一般機動的課題（若手機動的課題を含む）と産業機動的課題については、5月末、8月末、11月末、2月末の年4回審査を実施することとしている。これら機動的課題は、課題審査委員会委員による専門分野の審査を実施後、審査結果をもとに課題審査委員会による審議及び選定委員会の確認を経て、選定される。なお、2022年5月末審査分から課題審査委員会委員の負担軽減を考慮し、レビュアーが採点を実施し、その結果に基づき課題審査委員会委員から選出した専門分野リーダーが審査を実施する方式に変更した。

一般試行課題と産業試行課題については、ファーストタッチオプション(*)を含め、逐次申請を受け付けている。これらは、ソフトウェアの動作確認や性能評価等を目的とした規模の小さい課題であることから、迅速な審査を重視し、予め課題審査委員会で承認された資格審査項目に基づき、逐次事務局で資格審査を行い、選定される。

2. 選定結果

2022年度の一般利用、産業利用の利用者選定結果を以下に示す。

(1)定期募集（令和4年度B期募集、令和5年度A期募集）

令和4年度（2022年度）B期募集では、一般課題、若手課題、産業課題を対象として、応募数51件に対する審査の結果、28件を採択し、採択率は54.9%となった。令和3年度（2021年度）A期募集から導入された重点分野（3-1-1項参照）には、3件の申請があり、2件が重点分野として採択された。課題種類別の内訳は表1に示す通りである。

令和4年度（2022年度）B期募集の選定では、令和4年度（2022年度）A期募集と同様に、課題からの要求資源量が提供可能資源量を上回った（図2参照）。

令和5年度（2023年度）A期募集では、一般課題、若手課題、産業課題を対象として、応募数99件に対する審査の結果、68件を採択し、採択率は68.7%となった。重点分野には15件の申請があり、12件が重点分野として採択された。課題種類別の内訳は表1に示す通りである。

令和5年度（2023年度）A期募集の選定においても、課題からの要求資源量が提供可能資源量を上回った（図2参照）。

なお、令和4年度（2022年度）B期募集及び令和5年度（2023年度）A期募集においても、令和4年度（2022年度）A期募集に引き続き、一般課題の要求資源量上限を1,000万ノード時間から2,000万ノード時間に拡大して募集した。

「富岳」共用開始以降の定期募集における課題申請件数の推移については、図3に示す通りである。

選定の結果、採択された課題の分野別配分資源量の比率を図4、図5に示す。また、採択された課題の参加者の所属機関別分布、配分資源量の所属機関別分布を図6、図7に示す。

(2)随時募集

2022年度の随時募集課題の選定状況については、表2に示す通りである。随時募集の申請、選定件数は申請日（申請受領日）を基準として年度の集計としている。

なお、2022年度に開始した「富岳」国際連携課題（NSCC課題(**)）は、年1回の定期的な募集であるが、「富岳」一般試行課題に準じた資源配分とするため、随時募集の項に選定状況を記載している。

3. 未割当資源の有効活用

2022年度の実施課題として資源を配分した令和3年度（2021年度）B期募集においては、「富岳」共用開始とほぼ同時期の募集であったこともあり、課題からの要求資源量が一般利用、産業利用として設定された提供可能資源量を下回り、採択課題への資源配分後、未割当の資源が発生した。

また、3-1-1項に示す通り、2022年度のジョブ充填率が90%に変更（2021年度は88%）されたため、2021年度中に予め確定していた令和4年度（2022年度）A期募集課題への配分資源量に未割当の資源が発生した。

これらの未割当資源の有効活用と成果を最大化する方策として2021年2月及び8月開催の選定委員会で審議された方針に準じて、以下の再配分を実施した。

1. 一般利用、産業利用の計算資源としての有効活用
• 令和3年度（2022年度）B期採択課題に対する資源の追加配分
2. 一般利用、産業利用以外の計算資源としての有効活用
• 「富岳」成果創出加速プログラムの課題への資源追加配分

具体的には、①の対策として、令和3年度B期採択課題で申請上限まで要求している課題への希望調査を実施し、令和3年度B期分における未割当資源から追加配分した。令和3年度B期課題への追加配分の合計は約1,300万ノード時間であった。

②については、ジョブ充填率の変更により余剰となった未割当資源について、「富岳」成果創出加速プログラムの課題に約2,400万ノード時間の資源を追加配分し、有効活用した。

令和4年度（2022年度）の未割当資源の有効活用状況を表3に示す。

3-2-2 成果創出加速の利用者選定

「富岳」成果創出加速プログラムの課題は、文部科学省がHPCI計画推進委員会のもとに設置した「富岳」課題推進ワーキンググループによる審査が行われ、結果が登録機関であるRISTに通知された後に、選定委員会により提案までのプロセスが審査され、登録機関により選定される。

2022年度においては、上記選定プロセスに従い、2021年度から継続する課題22件が改めて選定された（表4参照）。

表4　令和4年度（2022年度）「富岳」成果創出加速プログラム 課題一覧

＜令和2年度～4年度の実施課題（既存課題）＞
課題名		実施機関（研究代表者）
	領域① ⼈類の普遍的課題への挑戦と未来開拓
	全原⼦・粗視化分⼦動⼒学による細胞内分⼦動態の解明	理化学研究所⽣命機能科学研究センター（杉⽥有治）
	⼤規模データ解析と⼈⼯知能技術によるがんの起源と多様性の解明	東京医科歯科大学 M&D データ科学センター（宮野悟）
	核燃焼プラズマ閉じ込め物理の開拓	名古屋⼤学⼤学院理学研究科（渡邉智彦）
	量⼦物質の創発と機能のための基礎科学 ―「富岳」と最先端実験の密連携による⾰新的強相関電⼦科学	早稲⽥⼤学理⼯学術院総合研究所（今⽥正俊）
	シミュレーションで探る基礎科学：素粒⼦の基本法則から元素の⽣成まで	⾼エネルギー加速器研究機構素粒⼦原⼦核研究所（橋本省⼆）
	宇宙の構造形成と進化から惑星表層環境変動までの統⼀的描像の構築	神⼾⼤学理学研究科（牧野淳⼀郎）
	脳結合データ解析と機能構造推定に基づくヒトスケール全脳シミュレーション ※	電気通信⼤学⼤学院情報理⼯学研究科（⼭﨑匡）
	領域② 国⺠の⽣命・財産を守る取組の強化
	プレシジョンメディスンを加速する創薬ビッグデータ統合システムの推進	理化学研究所計算科学研究センター（奥野恭史）
	マルチスケール⼼臓シミュレータと⼤規模臨床データの⾰新的統合による⼼不全パンデミックの克服	株式会社UT-Heart研究所（久⽥俊明）
	⼤規模数値シミュレーションによる地震発⽣から地震動・地盤増幅評価までの統合的予測システムの構築とその社会実装	海洋研究開発機構海域地震⽕⼭部⾨・地震津波予測研究開発センター（堀⾼峰）
	防災・減災に資する新時代の⼤アンサンブル気象・⼤気環境予測	東京⼤学⼤気海洋研究所（佐藤正樹）
	領域③ 産業競争⼒の強化
	次世代⼆次電池・燃料電池開発によるET⾰命に向けた計算・データ材料科学研究	物質・材料研究機構エネルギー・環境材料研究拠点（館⼭佳尚）
	スーパーシミュレーションとAIを連携活⽤した実機クリーンエネルギーシステムのデジタルツインの構築と活⽤	東京⼤学⼤学院⼯学系研究科（吉村忍）
	省エネルギー次世代半導体デバイス開発のための量⼦論マルチシミュレーション	名古屋⼤学未来材料・システム研究所（押⼭淳）
	⼤規模計算とデータ駆動⼿法による⾼性能永久磁⽯の開発	産業技術総合研究所材料・化学領域機能材料コンピュテーショナルデザイン研究センター（三宅隆）
	環境適合型機能性化学品	⼤阪⼤学⼤学院基礎⼯学研究科（松林伸幸）
	「富岳」を利⽤した⾰新的流体性能予測技術の研究開発	東京⼤学⽣産技術研究所⾰新的シミュレーション研究センター（加藤千幸）
	航空機フライト試験を代替する近未来型設計技術の先導的実証研究	東北⼤学⼤学院⼯学研究科（河合宗司）
	領域④ 研究基盤
	全脳⾎液循環シミュレーションデータ科学に基づく個別化医療⽀援技術の開発 ※	⼤阪⼤学院基礎⼯学研究科（和⽥成⽣）
※計算資源のみ配分
＜令和3年度～7年度の実施課題（既存課題）＞
課題名		実施機関（研究代表者）
	領域③ 産業競争⼒の強化
	データ駆動型高分子材料研究を変革するデータ基盤創出	統計数理研究所データ科学研究系（吉田亮）
	「富岳」が拓くSociety 5.0時代のスマートデザイン	神戸大学大学院システム情報学研究科（坪倉誠）
	「富岳」を活用した革新的光エネルギー変換材料の実現	理化学研究所計算科学研究センター（中嶋隆人）

3-2-3 政策対応利用の利用者選定

「富岳」政策対応利用課題は、「3-2-2　成果創出加速の利用者選定」に示す「富岳」成果創出加速プログラムの課題と同じプロセスで選定される。

2022年度においては、3件の課題が選定された（表5参照）。

表5　令和4年度（2022年度）「富岳」政策対応利用課題一覧

政策課題名	府省庁・局課室（研究代表者）
豪雨防災、台風防災に資する数値予報モデル開発	気象庁 情報基盤部数値予報課（石田純一）
経済活動と感染拡大防止の両立の実現のための「飛沫シミュレーション」の実施	内閣官房 新型コロナウイルス等感染症対策推進室（川崎雅浩）
相模トラフ沿いの巨大地震に伴う長周期地震動による影響の評価	内閣府 政策統括官(防災担当)付参事官(調査・企画)（矢崎剛吉）

3-2-4 Society 5.0推進利用の利用者選定

「富岳」Society 5.0推進利用課題についても、「3-2-2　成果創出加速の利用者選定」に示す「富岳」成果創出加速プログラムの課題と同じプロセスで選定される。

2022年度においては、1件の課題が選定された（表6参照）。

表6　令和4年度（2022年度） 「富岳」Society5.0推進利用課題一覧

課題名	実施機関（研究代表者）
「富岳」を機軸とした創薬DXプラットフォームの構築	一般社団法人 ライフ インテリジェンス コンソーシアム（奥野 恭史）

3-2-5 「富岳」大規模実行（全系規模実行）の利用者選定

「富岳」の持つ大規模並列ジョブ能力・大規模ジョブ実行能力を活用し、全系規模実行（全ノードの95%；152,064ノード）を希望する課題を、一般利用、産業利用、成果創出加速、Society 5.0推進利用、高度化・利用拡大の各実施中課題から募集するものであり、「富岳」全系規模実行課題審査委員会により審査を行う。選定された課題には、全系規模実行用の資源が追加配分される。主に「ACMゴードン・ベル賞」への応募を想定した募集であるが、利用目的はその限りではない。

2022年度は、7月に2022年度の「ACMゴードン・ベル賞」のファイナリストに選出された課題を含めた3件の課題（うち2件は2021年度の「富岳」全系規模実行課題に採択された課題）に対し、追加計算のための全系規模実行を実施された（表7参照）。

2022年度の「富岳」大規模実行（全系規模実行）の募集は12月に開始され、一般利用、成果創出加速、高度化・利用拡大から4件の課題が選定された（表7参照）。選定された4件の課題により、2023年2月24日からの4日間全系規模実行が実施され、うち2件が2023年度の「ACMゴードン・ベル賞」にエントリーした。

3-2-6 委員会等開催概要

2022年度に開催した選定委員会、課題審査委員会、学際共同研究ワーキンググループは表8の通りである。また、「富岳」の利用制度設計等のため、RISTが2019年度に新たに設置したアドバイザリー委員会の2022年度の開催はなかった。また、2021年度に新設した「富岳」全系規模実行課題審査委員会の開催状況は表9の通りである。

表8　2022年度委員会等開催一覧

種別	回	開催年月日	開催地	主な議題等
選定委員会	第6回	2022年8月10日	オンライン	令和4年度B期利用研究課題の採択および資源配分について
	第7回	2023年2月9日	オンライン	令和5年度A期利用研究課題の採択および資源配分について
課題審査委員会	第6回	2022年7月20日	オンライン	令和4年度B期利用研究課題の審査について
	第7回	2023年1月26日	オンライン	令和5年度A期利用研究課題の審査について
学際共同研究WG	第1回	2023年2月6日	オンライン	公募型共同研究HPCI-JHPCNシステム利用課題の審査について

表9　2022年度「富岳」全系規模実行課題審査委員会開催一覧

種別	回	開催年月日	開催地	主な議題等
全系規模実行 課題審査委員会	第2回	2023年1月31日	オンライン	「富岳」大規模実行(全系規模実行)課題の審査について

3-2-7 募集活動

令和5年度（2023年度）A期募集、B期募集にあたり、募集説明会を表10の通り開催した。また、募集内容については、HPCIポータルサイトで公開を行うとともに、ポスター及びチラシを関係機関に配布している（図8参照）。

表10　募集説明会開催一覧

種別	対象	回	開催年月日	開催地/ 開催形式
募集 説明会	2023年度A期募集	第1回	2022年9月15日	オンライン
		第2回	2022年10月12日	オンライン
	2023年度B期募集	第1回	2023年4月6日	オンライン
		第2回	2023年4月20日	オンライン