スパコンのことば -その2-
分子動力学シミュレーション

スパコンのことば
2013年11月掲載

私たちの体の中では、無数のタンパク質が働いています。タンパク質をつくっている何万個もの原子は止まっているわけではなく、いつも少しずつ位置を変えています。 タンパク質の周りにある水分子や脂質分子もいつも少しずつ動いています。

こうした原子・分子の動きをコンピュータの中で再現するために使われるのが「分子動力学シミュレーション」です。この手法では、 まず、観測データなどをもとに原子の最初の配置を決めます(①)。そして、1個の原子に他の原子から及ぶ力を計算します(②)。原子どうしの間に働く力には、原子が分子をつくるときの化学結合の力、 原子がプラスやマイナスの電気を帯びていることによる静電気力、分子どうしの間に働く力などがあります。これらをすべて合計します。

次に、その力を受けた原子がどのように運動するかをニュートンの運動方程式に基づいて計算します(③)。これにより、最初の配置から一定の時間が経ったあとに、原子の配置がどう変わったかがわかります。 この配置を新たな出発点として、また②と③の計算を行います。非常に短い時間の刻みでこれを繰り返すと、原子が徐々に動いていくようすを再現できるというわけです。

この手法では、タンパク質と薬の候補化合物が結合するようすを再現できるほか、 氷がとけて水になるようすなども再現できます。動きを再現したあとの解析により、エネルギー(結合の場合は「結合の強さ」にあたる)などの値を求めることもできます(④)

ただし、分子動力学シミュレーションでは、何万個もの原子の1 個1 個について同時に②と③の計算を行う必要があります。また、 時間の刻みは1フェムト秒(フェムトは10の−15乗)程度が普通なので、数十ナノ秒(ナノは10の−9乗)の現象を再現するだけでも、数千万回の計算が必要です。このため、「京」の計算能力が期待されているのです。

分子動力学シミュレーションの流れ。1. 原子を配置、2. 原子に働く力(化学結合力・静電気力・分子間力)を計算、3. 原子の動きを計算。1~3を繰り返し、4. エネルギーなどを計算する。
分子動力学シミュレーションの流れ
この記事は「計算科学の世界」NO.7
に収録されています。
計算科学の世界 VOL.7(PDF:3.89MB)pdf