理化学研究所 計算科学研究センター

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Science 研究成果

ダークマターの正体に迫るため多目的に活用できる非常に高性能な計算手法を確立

「世界の始まり、果て、終わりがどうなっているか?」は神話などでも語られてきた根源的な問いかけです。その問いは、宇宙の始まり、果て、終わりの探求につながります。天文学や素粒子物理学の進歩により、宇宙は理論的に解明する「科学の対象」となってきました。今までは「宇宙は膨張している。ただし、重力がはたらくため膨張速度は徐々に落ちていく。」というのが支配的な考え方でした。ところが、最近の観測から「膨張は加速している。」ことが解ってきました。

宇宙の進化

宇宙が単に膨張していくだけだと銀河のような構造物はできず、太陽も地球も生まれません。膨張宇宙の中で銀河や太陽のような天体を作るプロセスの鍵となるのがダークマターです。この未知の粒子ダークマターの正体を明らかにするために、それが生成してゆく過程や、宇宙にどのように分布しているかなどを「京」を用いて明らかにしようと試みています。

宇宙空間におけるダークマターの分布状態などを計算するには、粒子同士にはたらく重力を計算する必要があります。しかし、計算量があまりに膨大で、「京」であっても計算時間は非常に長くなります。そこで、考え方や計算方法を工夫する必要がでてきます。

工夫の一つは、粒子の扱い方です。遠距離にある粒子同士にはたらく重力は弱くなることに着目し、ある一つの粒子から見て遠くに存在する複数個の粒子はひとまとめとして仮想的な1個の粒子とみなすことで、計算負荷を大幅に低減しました。

もう一つの工夫は、並列計算時に扱う計算量が均等になるようにしたことです。「京」は同時に複数の計算を並行して行う「並列計算機」であるため、一つの計算が早く終わっても、残りの計算が終わらない場合、待ち時間が発生して全体の計算効率が悪くなります。ダークマターは宇宙空間に様々な密度で分布しており、並列計算を行うためには宇宙空間を分割して計算機ごとに割り当てる必要があります。分割した空間内の粒子数を均等にした方法はこれまでもあったのですが、今回使った手法は “計算時間”を均等にするよう調整したところに特長があります。

宇宙空間の分割例

これらの工夫により、「京」全体を使った2兆粒子の計算で計算速度5.67ペタフロップスを実現しました。この計算は、当時TOP500(*1)で「京」より上位にランクされたアメリカのスパコンを用いた類似の計算に比べ、粒子あたりの計算速度が約2.4倍速いものでした。この計算手法を評価され、2012年、計算科学において世界で最も権威ある賞の一つとされるゴードン・ベル賞(*2)を受賞しました。「京」のような大規模システムの開発・構築に加え、それを使いこなすアプリケーションの面でも日本が世界をリードしていることが示されました。

ここで開発された非常に高性能な計算手法は、重力の計算だけでなく、外からの力に応じて変形する流体の計算など、様々な現象の解析などにも活用できます。多くの人が「京」を容易に活用できるような共通ソフトウェアの開発、整備も進めています。

計算機科学と計算科学の発展は、人間が理解できる限界をどんどん広げています。今後は、ダークマターだけでなくそれ以外の要因も考慮に入れた銀河の形成や進化を、さらには恒星や惑星の形成過程、生命が生まれる惑星などについても解明を進めたいと思っています。またその知見がもたらす波及効果は、後に様々な応用課題の解決に役に立つものになると期待しています。

【京コンピュータシンポジウム2013講演などから抜粋】

 

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京コンピュータシンポジウム2013  講演要旨講演資料
マイナビニュース・京コンピュータでダークマターの分布をシミュレーション

*1 TOP500
世界で最も高速なコンピュータシステムの上位500位までを定期的にランク付けし、評価するプロジェクト。1993年からスーパーコンピュータのリストを年2回(6月、11月)発表しています。

【補足】TOP500の順位はLINPACKという連立一次方程式プログラムの計算速度を測り決定します。ただし、実際のアプリケーションを動かす場合、計算手法など様々な要素が計算速度に影響します。スパコンの最大限の力を引き出すためには、計算手法の工夫などが大変重要です。

*2 ゴードン・ベル賞: 1987年に創設。米国計算機学会(ACM)が運営。毎年11月に開催されるハイ・パフォーマンス・コンピューティング(高性能計算技術)に関する国際会議(SC)で、並列計算の科学技術への応用で最も優れた成果を上げた論文に与えられます。